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相違無き祝福を



世間ではクリスマスクリスマスと言うけど、私は未だに何をするのが正解なのかよく分かっていない。そういえば去年は私もフィンクスも仕事だったから、数日後に外食をしたりするくらいしかしなかった。


取り敢えず今年は今日の夕方には帰って来るらしい彼にとプレゼントを用意してみた。本来はサンタクロースという寒いのにその溢れ出るボランティア精神を分け与えている老人から貰うものらしいのだが、生憎彼の善意は良い行いをしている人間にしか向けられないらしい。ならば私達にプレゼントが与えられる事は無い。よって代わりに私が用意したのである。それ以前に他人にそう簡単に住居を特定されては困る訳だし。

肉を中心に私が思いつく、そして実現可能な限りの料理も用意した。ビールも馬鹿みたいにある。少しだけれど、ワインも。
今から帰る、という彼からのメールを見てから、私は再びキッチンへ戻った。





電車を降りてから甘いもんがそれ程好物でもないナマエに何を買って帰ればいいのか悩んでいた。ケーキというのが一番自然なんだろうが…。周りを見渡しても仕事帰りらしい奴らは鞄の他に包やら何やらを持っているし、義務を感じる訳でも無いが何か持って帰った方があいつも喜ぶんだろうな。


十数分その場で考えた結果やはりケーキ以外には適当な物が思い付かなかった為、駅前のすぐ近くにある店に入った。

俺が想像しているような物は少ししかなかった。白くて、苺が乗ってて、丸いやつのことだ。ケースの端の方にそれと、色が違うやつと、後何か色々乗ってるやつとかが数個おいてあった。それを八等分くらいにした一人で食えるようなケーキがあったことに少し驚いたが、ナマエがどれを食えるのか分からないから幾つか適当に選び店を出た。





「お帰り…ん?」

「ああ…?」


ナマエはフィンクスが片手に提げた紙箱を、フィンクスは遠目にテーブルの上の料理を見て頭上に疑問符を浮かべた。


「何?ケーキ買って来てくれたの?」

「随分豪勢じゃねえかよ、作ったのか?」


両者の口に出した疑問がぶつかり合い、思わず二人は笑い出した。お互いに思ってもみなかったことが起こり、さらにどちらもが同じ目的を持っていたということが何よりも愉快であった。


「そういえば、これプレゼント」


席に着くなり渡された包みにフィンクスは何時もより多く瞬きをする。手渡されたそれとナマエの言葉が一致し受け取るまで少し間が有ったが、理解すると静かに包みを受け取った。


「悪いな、用意してなかった」

「え、ケーキ」

「いやケーキはお前」

「嬉しいよ?」

「…ならまあ、いいけどよ」


テーブルの上に置かれた紙箱の中を覗いて、あれ、なんか多くない?とナマエが問い掛けるまで、フィンクスは何年経っても攻略できない彼女のよく分からない感性に怯んでいた。





「じゃあ、クリスマスおめでとう?」

「…」

「何だよその反応は」

「いや…」


珍しく缶ではなくグラスを持ちフィンクスが発した言葉に、ナマエはおいおい違うだろとでも言いそうな、少し驚きを混ぜた表情で言葉を失った。一方フィンクスは未だ堂々としたまま更に言葉を繋げる。


「聞いた話だとメリークリスマスってのは楽しいクリスマスを、って意味らしいじゃねえか」

「うん、いや別に…変じゃないでしょ」

「何かよ…こう、街中ですれ違った奴に言う感じっつうか…」

「よそよそしいってこと?」


妙な拘りを語り出したフィンクスをさて置き、ボウルのサラダをよそい分けながらナマエは返した。
要は楽しいクリスマスを、という言葉だと自分はクリスマスというものを良い物にすることを投げているように聞こえるということらしい。
数秒でグラスを開けたフィンクスはそれを缶に持ち替えもう一口飲み込みながら釈然としないといった様子で首を傾げていた。それを見てナマエは、変な拘りだなぁ、と溜息をつきながらも言う。


「結局祝福し合うって事でしょ?」

「祝福、まあ、そうか」

「ならただお互いに言い合えば良いだけでしょ」


それもそうだな、とフィンクスは顔を上げた。やっぱり彼の性格は分かりやすいと先程の考えを脳内で否定したナマエは小さく笑う。

神を信じない二人がこうしてその生誕を祝福するのはなんとも滑稽だが、性悪であることを除けば仲睦まじい恋人同士である。
…こんな聖夜だからこそ、今夜くらいそれは見て見ぬふりをしても良いだろう。


「じゃあ」

「「メリークリスマス」」


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