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唯一の弱味



ソファーに座るナマエが数粒の錠剤を飲むのを横目に見て、風呂から出たフィンクスは思わず小さく声を出してから続けた。


「何だよ風邪か?」


彼が自分を見ているのに気付かなかったナマエはその言葉を聞いて手元のパッケージから顔を上げた。特に理由は無いが口籠ってしまった少しの間に頭上からそれを取られる。

頭に乗せたタオルで頭を乱雑に拭いているフィンクスを残った水を飲みながら見ていたナマエは若干眉根を寄せて口を開いた。


「…おいしくないよ?」

「お前な…」


やっと何か言ったと思ったらそれかよ、とフィンクスは薬の箱をソファーに投げ捨てた。

負傷を防ぐ事はある程度は容易でも、自分で身体の機能を操作する事はできない。絶の状態であれば幾らか早く回復はするのだろう。しかしナマエの場合、彼女の仕事中でも無いのにわざわざそんな事していたくないという考えから、薬を服用しじっとしていることにしている。


「腹痛えのか」

「ううん」

「頭か」

「違うよ」


もぞもぞとシャツを着ながらのフィンクスの問い掛けを一通り、と言っても二つだったが否定しナマエは薬の箱を退け、ごろんとソファーに横になった。
ナマエの症状はただ少し怠く微熱がある位の軽いものだった。恐らく珍しく長期の仕事を終え疲れが出たのであろう。現に彼女が飲んだのは風邪薬の類では無く栄養剤の一種である。フィンクスはそのパッケージを見た筈なのだが、文字通りただ眺めていただけらしい。

服を着終えたフィンクスがビールを片手に近付くとナマエはゆっくり上半身を起こした。


「風邪引いたんならベットで寝ろ」


風呂上り独特の暖かい手が髪を撫でる感触でナマエの眠気は急増した。勿論体調不良の彼女を何とか寝かし付けたいフィンクスの狙い通りだ。次第に瞬きが遅くなりちらっと時計を見る。何とも分かりやすい。ソファーに座ったフィンクスは思わず小さく鼻で笑った。


「明日は仕事無えんだろ?」

「…うん」

「尚更早く寝ろ」


飲み終えたビール缶をぐしゃりと潰し、それを捨てるべく立ち上がったフィンクスのシャツを開ききらない目のナマエが掴んだ。眠気に伴う目の乾きをぎゅっと瞑ることで一時的に緩和為せたナマエはいまいち呂律の回らない、ぼんやりした声で呟いた。


「フィンクスが寝るなら、寝る」


その言葉にフィンクスはしょうがねえなと笑いテーブルに空き缶を置き、代わりにナマエを抱えベットへ運んだ。何も恐れる事の無いフィンクスもナマエには叶わなかった。


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