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氷が熱で溶ける様に



浴槽の掃除を終えてリビングに戻ると携帯電話がちかちかと光っていた。私のこれにメールが届くと言えば仕事の依頼か、昨日の夜に出掛けて行った彼からだ。ただフィンクスが仕事中、若しくは仕事終わりにこれから帰るなんて報告して来た事は無かったから、こんな時間に仕事かなあなんて小さく息を吐いた。


『あまからえる』


画面を開き一番に目に入ったのは意味不明な六文字。差出人は予想から外していたフィンクスだった。何処で区切って読めば良いのか、寧ろこれが名詞なのか動詞なのかも分からない。…一体彼は私に何を伝えたかったのだろう。と言うかもしかして返信を待っていたりするんだろうか。

文(?)末にクエスチョンマークが付いていない事から、恐らく私が答を考えて返信するような内容では無い筈。なら無難に「うん」とか「はい」とかかな?いやでもこれが何か意味を持った単語だったら変だな…。

暫く、と言っても数分だが迷った挙句、私の中で返信はせず帰ってきたら意味を聞くという結論に至った。いつ帰ってくるのかは定かではないけれども。


迷いが晴れ、さあ仕事の事務でもやってしまおうかなと考え始めた時だった。チャイムが二回連続で押され、フィンクスが帰宅した事が分かった。このインターホンの押し方というのも何かと警戒に煩い彼が決めたことだ。滅多に人なんて来ないのにね。


「お帰り。早かったね」

「ああ…ってメール送ったろ?」


フィンクスは上着を脱ぎながら自分の携帯電話を確認していた。
ボタンを押しているフィンクスに届いたけど分かんなかったんだ。と言うと丁度彼も自分の送信したメールを目にしたらしく、眉根を寄せてこりゃひでえなんて言っていた。


「ご飯食べたいとかそういう事だった?」


なら何か作るけど、と机に開きかけだったパソコンを片付けながら聞く。それに短く否定の言葉が続いたので台所には向かわず、浴槽にお湯が張ったか確認した。私の一連の動作の間何か思い出す様に眉間に皺を寄せていたフィンクスが口を開いたのは、私がソファーで一息付いた時だった。


「今から帰る、って送ったつもりだったんだが」


歩きながらだった性か…と若干しょんぼりした様子のフィンクス。
流石にあの六文字から其れは読み取れなかった。そして多分歩きながらは余り関係ないと思うよ。

其れにしても何で報告のメールを送ったんだろう。若しかしたら同居し始めてから初めてかもしれない。
駄目だ、と呟いて携帯電話を放った彼を見ていると訝しげに眉を顰めゆっくり此方に視線を移した。


「まさか一昨日お前が言った事忘れたか?」

「…私仕事無いからいつも通り鍵は持ってかなくて良いよ」

「あーいやまあ、其れも言ってたけどよ」


これしか無いと思ったんだけど…。何だろう。何か大切な事なんて言った記憶無いけどなあ。


「帰って来る時に連絡しろって言ったろ」


そう言われて見れば言ったかもしれない。けど恐らく無意識だった。今フィンクスに言われてぼんやり霞の掛かった記憶が浮かび上がりつつある。その程度だった。
其れらを要約し、今思い出したと謝ると別に構わねえけどよ…と拗ねてしまった。


でもこれで分かった。幾ら眠そうでも、他の事をしていてもフィンクスは私の話は聞いてくれていた。ぶっきらぼうな態度の時でも気に掛けてくれているんだなあなんて気付いたら急に抱き着きたくなって迷わず実行に移す。
ありがとうと一言言うとフィンクスは抱き返してくれた。


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