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心配だったこと



お前は今幸せか?

彼にいきなりそう言われて辞書を捲っていた手を止めた。昨日仕事から帰ってきたフィンクスがその時からやけに私を凝視したり将又宙を見たりしていたから変だとは思っていたけど。
仕事で何かあったのだろうか。死に隣接した生活の中で彼が疑問を抱くのはそれほど多くないとは思う。簡単に言ってしまうとそんな暇は無い。殺した人間を憐れんでいる間に自分がその側に横たわるようなことになっては余りにも滑稽だからだ。


「幸せとは…幸運に恵まれて心が満ち足りていること」

「…あ?」

「この辞書には、そう書いてある」


索引したページを指差してずいっと押し付けるように見せると、はあ、と難しい表情だったフィンクスの顔が疑問で緩んだ。怯んでいたのがだんだんだから何だとでも言いたげになった。
…眉が無いから感情がよく分からないと思われがちかもしれないが意外とそうではない。不機嫌だとか逆に上機嫌だとか、何だか哀愁漂ってたりする時も見てると分かる。現に先程までも、何処か不安があるような、いつも感じる猛々しさ…は過言かもしれないが、それが薄くしか感じられなかった。


「じゃあ、フィンクスにとって幸福とは?」

「はあ、…どう違えんだ。幸せと幸福ってのはよ」


うんまあ、確かに私もそう思うけど。胡座をかいていたフィンクスは頭を掻きながらゆっくり体勢を替え通常の座り方になった。私も本を閉じ机に置いて開いた手をソファーに着く。



「良い出会いに恵まれて、私の心は満ち足りてるよ」


つまり私にとっての何よりの幸福はフィンクスと出会えたこと。そして今こうして暮らしていて満ち足りている。

だから幸せなんだと思うけど。そう彼に告げるとまさに鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で、組もうとしていた腕は宙で行き場を無くしていた。
面白かったので暫くそれを見てから「フィンクスは?」と聞き返すとはっと我に返り腕を組み私と反対を向いてしまった。耳が赤いのは見えているから意味は無いのだけれど…。

今日はそんな彼をからかってみても良いかもしれない。


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