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種族違いの兄弟かもね



フィンクスは仕事帰りのナマエとの待ち合わせ場所に向かっていた。両手をポケットに突っ込んでいるお陰で厳つさは増し服が違えば職務質問されるような風体だ。時折道行く一般人が視線を向けるが直ぐに反らしたりフィンクスがそちらを振り返る事によって早足で去っていく。前にナマエに「ジャージじゃなくて普通にコートとか着ればいいんじゃない」と言われたのが脳裏に過ぎるが頭をがしがしと書いて紛らわした。



通りの中でも人気の少ない所でナマエの姿を捕らえたフィンクスは彼女の姿が少し妙なのに気づいた。…何か変だ。遠目でもそう認識でき、目を凝らしながらもナマエに近づく。



あ、と反応したナマエが少し様子が変なのにはフィンクスは気付いていたし、おそらくナマエも彼が怪訝な表情をしているのは察していただろう。フィンクスはナマエが振り返るなりじっとその胸元を見てから目線を上げ目を合わせた。ナマエは口をきゅっと横に引いている。
怪しい。素直にそう思ったフィンクスはナマエが控え目に抵抗するのを他所にマフラーをぐいっと持ち上げコートの中を覗いた。


「おい」

「はい」

「何だこれは」

猫ですが。
真顔で答えたナマエの頭をフィンクスが軽く叩いた。端から見ると奇妙な一連のやり取りだが、生憎二人は周りを気にするというスキルは所持していない。人通りの少ない場所であるから尚更だった。


「お前に動物が飼える訳ねえだろ!」

「…フィンクス」

「それは何だ俺が動物だとでも言いたいのかこら」


口を尖らせたは良いもののフィンクスに頭を掴まれ動けなくなったナマエはそのまま胸元に無理矢理目線を下ろした。まだ子猫だ。善人ではないとは言えど可愛らしい動物に惹かれるくらいの心は持ち合わせている。
ナマエがじっと猫を見て少し口元を緩ませていたのを見たフィンクスだが、現実的に見て二人が動物を飼えない事に溜息をついた。いやナマエも分かっている筈だ。得することより損することの方が多いと。リスクを背負って利益を得る職業柄損得で物事を考えるナマエなら尚更だ。



しかしこのまま捨てて来いっつうのもアレだな…。フィンクスには何故かどこと無く可哀相に思えてきてしまっていた。あー、と唸って後頭部を掻いてからナマエのコートに手を突っ込み子猫をその手に持った。

「飼い主探せばいいんだろ」


いきなり胸元に手を突っ込まれ怯んでしまったナマエはぽかんと口を開ける。フィンクスはその表情に柄にも無いことをした事に気付き、慌ててナマエに背を向けその手を引っ張った。小さく笑う声が聞こえたが振り返ることは出来ず、うるせえと手を引く力を強め、後ろにいたナマエを横まで移動させて離した。


「何で拾った?」

「うん?」

「色んな場所行ってりゃ捨て猫なんてそこらにいるだろ」


フィンクスが両手で慣れない様子で猫を持つ様子は何とも面白い。後ろ手を組んでいたナマエはそれに込み上げる笑いを堪えつつ、彼の抱える子猫をそっと受け取った。猫とそれを見詰めるナマエをまたも怪訝に見るフィンクスを交互に見遣ったナマエは待ち合わせてから初めての笑顔で言った。


「何と無く、目付きがフィンクスに似てたから」


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