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彼
そういえばナマエに会ったのは雨の降っている夜だったか。雲で覆われ月明かりは無くて、雨がちらちら街灯に照らされている風景を今でも覚えている。ナマエの銀の髪はそんな暗闇でも見えるくらい輝いてて、とても裏の仕事をしているような奴には見えなかった。今ソファーでぼんやりテレビを観て口を開けているのを見ても、…やっぱそうは見えねえ。
「どうかした?」
俺の視線に気付いたらしい。ゆっくりこっちに顔を向けながらテーブルのカップを持ち上げた。
ナマエは運び屋だ。「より素早くより的確に」をモットーにしてるとかで、客からの評判も中々良いらしい。もちろん危険が伴わない筈も無く時々怪我をして帰ってきたりするから正直辞めちまえと言いたい。けど俺がコイツと会えたのもその仕事あってこそってのもあるし…。
なんて思いながらナマエを凝視しているといつの間にか手元のカップも空になったらしく、何とか視線を俺と合わせたまま手を伸ばしそれを置き、それでも反応しない俺に首を傾げた。
ぼーっとしてたのがようやくそこで途切れる。
「昔のこと思い出してただけだ」
そう言って頭をぐしゃっと撫でると「そう」と微かに微笑んだ。
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