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加減が下手
テレビからの賑やかな笑い声に混じって何やら雑音が混じっているのに先に気付いたのはナマエだったかもしれない。パソコンで資料の整理をしていた彼女は時折隣に座るフィンクスを何処か心配そうに見ながらも作業を続けていた。
…彼が一言呟くまでは。
「すげえ腕痒い」
フィンクスががりがりと動かしていた手を止めると薄ら腕の皮が剥けているのが露になった。成る程これは痒そうだ、とその腕を握り見てみたナマエは一度それを離し、作業途中だったらしいパソコンを少し弄ってから立ち上がった。もう一度掻き始めようとしたフィンクスの手を彼の膝に移動させる。じっとしていろという意味だろう。何と無くそれを悟ったフィンクスは痒みを紛らわすように腕を振りながらナマエの帰りを待った。
「はい」
軟膏。と言ってナマエは一本のチューブを渡した。彼女がソファーに座り直しながら随分前のだけど大丈夫だよね、とか何とか言っている間フィンクスはそれの銘柄やら何やらを見詰めていた。
「どういう具合にだ」
「…適当に?」
次の瞬間ナマエはずいっとチューブを押し付けられた。その適当が分からんということだろう。ナマエは料理でさえも適当の一言で済ます。それがただ説明を省いているだけなのか、またもや言葉通りなのかは後者が恐ろしくてフィンクスも聞けないでいた。
「乾燥なんて無縁だと思ってた」
「俺も何でか分からん」
薬を塗ってもらい、フィンクスは少し赤みを持った腕を不可解だとでも言いたげにじっと凝視しながら息を吹き掛けた。痒み止めでは無い性かふと思い出した様に腕を見遣るフィンクスのもう片方の腕は阻止するべくナマエによって握られている。その間に結構な力が込められていなければ一見和やかな男女なのだが。
「治った」
「…良かったね」
いつの間にか二人して眠りこけていた。珍しく先に目を覚ましたフィンクスは赤くなっていた腕で目を擦り治ったことに気付き、その声でナマエもそれに続いた。
傷一つ残っていない腕を見て早えぇよと言ってやりたいナマエだったが、そもそも強化系のフィンクスなら薬なんて必要無かったのではないかと気付いたのはまた彼が痒みを訴え出したた頃だった。
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