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人工的な暖かさ



思えば昼間から仕事なんて久し振りだったなあなんて考えながら、確か切らしていたビールを買って帰路に着いていた。コンビニで会計を済ませてから気付いた昼間からビールもどうなんだろうという思考も直ぐに捨て去り頬を切る風に耐える。果たして今日は暖房が点いているのだろうか。いや前みたいにリモコンが壊れた、というか同居人によって壊されていなければいいのだけれど。風で払われたマフラーを巻き直し、暖かな自宅を期待して足を早めた。





廊下からリビングへのドアを開けて無意識に目を細める。ぴりぴりするくらい冷たかった耳や鼻がじんわり溶けていく。
ソファーを見るとフィンクスは腕を枕にして昼寝していた。私が仕事に出る時間と一緒に起きたせいで眠かったんだろう。力尽きる寸前にテレビを消したらしく、その左手にはリモコンが握られていた。
コートとマフラーを脱ぎダイニングのイスに掛け変わりにカーディガンを羽織る。ついでにビニール袋をテーブルに置いたのだがその時にがしゃっと予想より大きい物音を立ててしまった。ソファーからもぞもぞと動く音が聞こえ、ああ起こしてしまった、と其方を見るとフィンクスは身体を起こして座り直し大欠伸をしていた。


「起こしちゃったね」

「…いや、腹減って起きた」


何故自分はリモコンを持っているのかと考えている様子だったが直ぐに思い出したらしくそれをテーブルに置き、がしがし頭を掻いた。いつも一瞬だけ思うことがあるが、禿げそうで怖い。言わないけど。
まだ眠そうなフィンクスは普段から悪い目付きをもう少し細くしてテーブルの辺りをぼんやり見た後ふと立ち尽くしている私を見て手招きをした。スリッパ履いた方が暖かくなるかなあなんて考えていた所だったがまた欠伸をした彼の隣に座る。


「外寒いのか」

「冬だからね」

「何か耳赤いぞ」


寝惚けているのか抑揚の無い言葉を発しながらも両耳を私のより一回り二回り大きな手でまるで頭を掴むように挟まれた。いつもこんなことしないのに、やっぱり眠かったんだなぁ。ぼーっとしているフィンクスをじっとしてずっと見ていると、だんだん彼も目が覚めてきたのか目が開いてきた。

フィンクスは私がやっといつもくらいの目になったかな、と思ったところではっとしたように手を離し逃げるようにテーブルのビールを持ってキッチンへ消えて行った。照れた時にすっと逃げるのは最早彼の癖かもしれない。


此処は一つ、いつもと違う彼にいつも言わないような皮肉でも掛けてみようかな。


「フィンクスも赤いよ」


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