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適正判断



「チェスを教えてくれ」


突然のフィンクスの要求に私の飲み込もうとした紅茶は数秒間咥内に留まることになった。突然というのも帰ってきたとたんにただいまも言わずに冒頭の一言だ。少し考えてから紅茶を飲み込み窓の外を見た。雨か霙を確認したのだが、靴を脱ぎ放ったフィンクスには分かっていないのだろう。不思議そうに一度目線を追ってから私のノートパソコンを取り出し電源を点け自分の前に置いた。


「どういうこと?」


フィンクスがどかっと隣に座り込んだ衝撃で目線を空から腕を組む彼に移した。慣れない手つきでパソコンのマウスを握る彼の手を壊されては堪らない。フィンクスの手を押さえてそのままパソコンを自分の前まで引きずった。


「何でいきなりチェスなの?」

「何でもだ」


何か向きになってるし。前ブラックジャックを教えてくれと言われた時はなんとなくしっくり来たのだがチェスとなると何か違う。きっと麻雀とかの方が合ってるよ。とは言わないでおこう。なんとなく。
そうだ、そのブラックジャックの時と多分同じなんだろう。蜘蛛は団員達でトランプやらをやることがあるらしい。フィンクスの話を聞くと毎回思うが、案外平和な人達なのでは…。まあそれは置いておこう。


「勝負するの?」

「ああ、チェスぐらいできねえのかとかおちょくりやがって」

「チェスは頭使う…あ、いや」

「…何か言いたそうだなナマエ」


フィンクスは鳥頭を暗喩することにはすぐ気が付く。そんなつもりは無かったんだけどね。何と言うか、チェスは経験というか場数みたいな所あるからルール覚えてもなんとかなるようなもんじゃないよ。とそう言いたかったのだと撤回すると、先程のフィンクスの言葉と共に私の肩に置かれていた腕の重みは無くなった。

パソコンで適当なチェスの対戦ソフトを探して操作してみるがビショップの動きを説明した辺りから彼の眉間に皺が寄ってきた。負けず嫌いな所があるせいかいつもよりは頑張っているけど、多分残りの駒の説明は必要無い気がする。頬杖をついて適当に駒を動かしている本人もこりゃ駄目だと思っているに違いない。

気分転換にコーヒーを入れてリビングに戻ると意外にもフィンクスはまだ液晶と向き合っていた。


「ていうかチェスじゃなくてトランプにしようって言えばいいじゃない」

「あ、それもそうだな!」


勢いよく立ち上がった彼はもう一度アジトに向かうらしい。また馬鹿にされて帰ってくるような予感がする。

やっぱりフィンクスにチェスは無理だよ。


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