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なんか悔しい
「ただいま」
「おー…あ?」
ぼすん、といきなり抱き着かれ思わずコントローラーを握っていた手を腕と共に上げてしまった。首元に当たる髪がくすぐったいが顔が見えなければ表情も解らないのでとりあえずずり落ちそうなナマエの腰を抱いて膝の上に座らせる。一連の動作の中でナマエは背中に回した腕を離さなかった。
多分怒ってる。あまり感情の起伏が激しくないナマエのオーラはよっぽどのことがないとこんなには揺れない。俺は何もした覚えが無えから仕事で何かあったんだろう。今までにも何度かあって、毎回落ち着くと離れて風呂に入るなり疲れてれば寝る。だから放っておくのが一番だ。下手に俺が声掛けるよりそのほうがいい。ということでもう一度コントローラーを握った。
「今日」
「ん?」
「仕事だったんだけど」
抱き着いたままもぞもぞ動く。あまりにもくすぐってえからナマエの頭を押さえると大人しくなった。
ぶつぶつ話し出したナマエの愚痴を要約するとこうだ。男がいるのかとか言われて変だとは思ってたが仕事が終わってみるとそんなやつより俺のところに来ないかとか言われたらしい。
俺をどう説明したのかは知らないが好き勝手な言われようだ。まあ多分どう言ってもそういう印象だろうとは思うが何となくむかつく。
「だから棄ててきた」
「棄てた?」
「棄てた」
そいつ五体満足か?まあいいや。
「お前何に怒ってんだ?無駄働きしたことか?辱められたことか?」
コントローラーを置いてテレビを入力切替するが面白くもねえ番組ばかりだった。仕方なく消してリモコンを放る。話さなくなったナマエは後頭部くらいしか見えない。動かないから寝たかとも思ったが、まだオーラは揺れていた。
喉渇いたんだがどうするかな…。このままナマエ抱えて冷蔵庫まで行くのは余裕だが何となく怒られる気がする。しょうがないから少しの間待機していてもらおうかと持ち上げて座らせようとしたが、ちょうどナマエを持ち上げたまま立ち上がった時に何やらぼそっと言ったのに気付いた。
「…フィンクスのことそんなやつって」
何だそんなことかよ。普段大雑把なのに何でそんなの気にするんだか。
無理して背伸びしても流石に俺の首元までは届かなかったナマエの頭は胸に落ち着いた。なぜか鼻声のナマエを放置できず、結局ナマエが寝るまで喉の渇きは潤わなかった。
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