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少しの憧れ
冬めいて寒さが増して来るとテレビ番組は色味を増し、何となく女が生き生きし始める。ナマエはと言うと、…別状はそれと言って無い。俺が行くと着いて来るが、あまり人混みが好きじゃないらしい。もしかしたら付き合い始めてすぐくらいに遊園地ではぐれたのが原因かもしれない。一応反省はしている。
そんなナマエもイベントというか、祭みたいのには興味があるらしい。今はパソコンで次の仕事先を見ているみたいだがちらちらと手元とテレビの間で視線を行ったり来たりさせている。
「そういえばお前編物とかしねえよな」
「…うん」
そうだよな、とテレビに目線を戻してから気付いた。何か俺すげえ物欲しいみたいじゃないか?別にそんな意味じゃないというかそりゃ作ってくれるなら嬉しいし欲しいとも思うが意外と不器用なナマエに編物なんて出来る気はしないしでも変な所に責任感強いってのも知ってるし要はどうすればいいんだこれ。
「強請ってるんじゃないからな」
「うん」
これ以上はきっと泥沼だ。もう黙っていよう。いつもナマエが無駄に気を使う理由の七割方は俺のすぐ口に出す癖のせいのようだと薄々感じているからだ。ただ相変わらずパソコンに向かっているナマエは見張っていても何を仕出かすか解らない、そんな奴だから心配だ。
「ただいま」
「おー、…ナマエ」
うるさい、とでも言いたげにふいと顔を背けて買ってきた食材を持ってキッチンに行ってしまった。
その理由はというとナマエが買ってきたものにある訳で、袋をひっくり返すと黒の毛糸玉が二、三個ぼとぼとと落ちた。
「練習だから」
キッチンから少しだけ顔を覗かせたナマエはそう言うとすぐに顔を引っ込めた。あんまり表情に出てないが照れてるんだろう。いつも思うがやっぱり照れ隠しするのが下手だ。練習だから、とか言ったか。なら試作品でももらってやろうじゃねえか。
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