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レム睡眠も程々に



深夜に電話が鳴るのは仕事柄少なくない…と思われがちかもしれないけど、意外とそうでもない。だからこそ今私は少し驚いている。メールが届いたのかとも思ったが、リビングに置いた携帯電話が鳴り続けていることから電話だと気付いた。仕事先からかもしれない。慌てて布団から出て小走りでリビングへ向かった。


「…もしもし」


もしかしたらすごく不機嫌に聞こえたかもしれない。ぼやける視界を擦って拭い時計を見ると結構な深夜だった。それでもすぐに眠気が覚めるのはやはり仕事柄なんだろう。


『ナマエか?』

「うん、フィンクス?」


着信先を見ずに出たせいで相手が彼だったことと思ったより声が大きかったことに少し驚いた。名前を呼ぶのがいつもより早口だったことに疑問を抱きつつもフィンクスの次の言葉を待つ。


『何かあったか?』

「何も」

『ちゃんと鍵閉めてるか?』


いきなり何なんだろうか。やや私の言葉に食い込み気味に質問された。それに鍵はかけるものであって閉めるものではないよ。脳内で彼の言葉の揚げ足を取りつつ玄関が施錠されているか確認する。問題無し。ベランダの窓も目視で確認したが問題無い。それに戸締まりは昨日フィンクスが出掛ける時に何度も言われた。彼は今旅団の仕事で遠出しているところだった。


「大丈夫だけど」

『…そうか』

「どうしたの」


明らかに吃っているフィンクスにそう尋ねると、今度は黙ってしまった。変なの。いつもは、まあ捲し立てたりする人ではあるけど、慌てたように話す彼は久しぶりだった。
そういえば前に私が帰ってくるのが遅れた時にこんなことがあった気がする。その時は大変だった。一、二日帰宅が遅れるのなんてフィンクスも時々するから大丈夫だと思っていたらそうでもなく、帰ったら彼が不機嫌で、後の数日間はとても外出するような雰囲気じゃなかった。
そんなことを思い出していると、小さな声で彼が何か言ったのに気付いた。聞き取れなかったので聞き返すとまた少しの沈黙の後、先程よりははっきりした声で言った。


『変な夢見た』

「え?」

『ナマエが出てきた。良くねえ夢』


ふて腐れたような声色だった。フィンクスが言葉をぶつぶつ切って話すのは照れてる時か拗ねてる時だというのはこれだけ付き合っていれば分かる。今は後者に近い気がした。


「私夜襲されて負けるほど弱くないよ」

『ああ』

「逃げるのは私の専売特許だし」

『分かってる。お前がそこらの能力者に負けるほど弱くないのは十分分かってる』


ただ、と止まること無く話していたフィンクスがそこで口ごもる。いや口ごもるというより言葉を探しているようにも感じた。


『…何でか分かんねえな』


何がよ、と一度ぽかんとした後思わず吹き出してしまった。電話の先で彼が動揺しているのが感じられる。私もフィンクスも情には疎いから、思考がすれ違うこともある。どうやら今回は私が彼より一歩前に抜ける事が出来たみたいだ。やっとあの時フィンクスが不機嫌だった理由がはっきり分かった。
一言で言うと、フィンクスが私を心配してくれたのだ。余程悪い夢だったんだなあとうなされる彼を想像すると不謹慎だが口元が緩みぼんやり胸が暖かくなる。


「ありがとうフィンクス」

『あ?』

「ちゃんと家で待ってるからお仕事頑張って」

『…?ああ』


フィンクスは真夜中に起こされて何故礼を言われるのか釈然としない様子だった。帰ってきたちゃんと顔を見てありがとうと言おうと思う。私が帰ってこないのに拗ねたり夢ででも私に会おうとしてくれる彼は、なんだかすぐに帰ってくる気がした。


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