──翌日
 そろそろ公園に向かおう。何もいませんように、と恐る恐る玄関を開ける。
 外に誰の姿もない事を確認し、安堵の息を吐いた。コンビニへ行くだけでも、変な奴が奇声を上げて追いかけてきたり、家を出ようとしても、玄関前で鬼ごっこしている子供達の声が聞こえたりと散々だった。歩くこと、約五分。何事もなく指定された公園に着いて、ベンチへ腰掛ける。ここが本当にあの世界の中なんだもんなぁ、と周りを見渡してから、落ち着くために持ち歩いている本を取り出した。暫く本を読んでいると、正面から声をかけられた。

「ゆかさん、待たせちまって悪ぃな」
「黒崎くん、全然待ってないよ。私の方こそありがとうございます」

 立ち上がり一礼すると、一護の後ろに見覚えのあるご友人方が一緒にいた。

「ああ、こいつらは俺のクラスメイトだ」
「黒崎くんから聞きました、こっち来てからユウレイが視えるようになったって。一緒ですねっ」

 そこにいたのは、織姫、雨竜、そしてチャドだった。一人ずつ自己紹介をしてもらった後、自分も「よろしくね」と挨拶をする。
 何故この三人が一緒にいたのかは、大方見当がついた。きっと一護の事だから、新しい知り合いが出来たとかで、霊媒体質だから仲良くしてやってくれ、とでも言ったのだろう。そういう一護の人柄が縁を紡いでくれるのだと、単純にそう思った。

「ここには神野さんみたいな仲間が複数人いるから、安心するといいよ」

 眼鏡を触りながら、視線を逸らす雨竜は人見知りのようだ。

「……俺も井上も一護のお陰で霊力が強くなった」

 チャドに名前を出された織姫は「えへへ」と緩んだ顔で笑顔を向けてくれた。
 皆の優しい心遣いに自然と笑みが零れる。出会った初日にして仲間のように接してくれることが、彼らにとっては普通のことなのに、とても嬉しかった。正直、大人になるとどうやって友達を作るのかわからなくなる。まどろっこしい考えが純粋さを失わせていく。久々の新しい友に顔が綻んだ。

「ありがとう、何かあったらよろしくね。ユウレイって初めてだから」

 珍しい感情に困りつつ照れながら笑うと、一護が「あ、そうそう」と鞄から何かを取り出した。

「はい、コレな。とりあえず浦原さんにユウレイ除けの効果あるヤツくれって言ったらくれたんだ。お代はいらねぇってさ」

 どきっとした。ついに彼の口から聞いてしまった、浦原さん。ああやっぱり存在するんだ、と妙に納得する。元の場所で喜助さんと呼んでいた事実は、自分の心の中にしまっておいた。そんな事を思い出し、気恥ずかしくなりながら御礼を告げて、小さな紙袋を受け取った。
 紙袋を上からちらっと覗く。中身は普通の御守りのような身に付ける類だった。
 ──一心さんがコンに渡していた物に似てるな。
 手には、喜助さんがくれたもの。そう思うだけで心強くなった気がした。
 想う力は鉄より強いんだから、とゆかは早速、肌身離さず持ち歩くことに決めた。
 
 公園で少し話した後、夕飯の時刻も近づいてきたので早々に解散することに。そういえば一護の門限って七時だったねえ、としみじみ思い返す。何だか今日は安心して元気が出てきたので、久しぶりに豪勢なご飯でも作るか、とスーパーへ寄ってから、浮かれ気分で家路に着いた。

§


 キーホルダーに引っ掛けた御守りは毎日持ち歩く鞄へと括り付けた。出掛ける時には、今日も頼むよと願をかけている。暫く経っても、あの御守りの効果は絶大で、ユウレイから絡まれることはほぼ無くなっていった。自分から見えてしまうのは不本意ではあるが、仕方がないので、そのまま見て見ぬ振りをする。ちょっと寂しそうにしているユウレイを尻目に、マンションの廊下を進む。近くへ寄ると何故かビクついているようで、ゆかの肩に乗ったり後をついてくることも無くなった。慌てて玄関へ駆け込むこともなく、普通に生活が出来る現状に感謝した。
 自分の世界が一変してから、一週間と少しが過ぎたところか。そろそろこの辺の地理にも慣れてきた頃だし、と上司に電話を入れる。テレビを消音にして、ソファへ腰掛けた。

「もしもしお疲れさまです、神野です」
「おお、元気か? 調子はどうだ?」
「こちらの状況にも慣れてきましたので、職場復帰しようかと思いまして」
「そうか、そりゃ良かった。もうすぐ繁忙期だからな、助かるぜ」
「はい、まぁ社名も何の業種かも全く存じ上げないんですが」
 上司の希望をバッサリと切り捨てるように言い放ったゆかは、彼から見て普段どおりの様子だったようで、甲高く笑っていた。
「いいさ、少しずつ慣れていけばいい」

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