「ちょっと早いですが、ゆかサンに」

 ぽん、と両手の上に置かれた紙袋を見つめる。袋には確かにシーズンカラーのリボンが結ばれ、プレゼント仕様となっていた。表面に装飾された『Merry Christmas』の英字が目につく。

「クリスマスプレゼントだったなんて」
「帰ってから言おうと思ってたんスよ。先に言ったら受け取ってもらえない可能性もありますし」

 受け取らないなんてあるわけないのに。ゆかは紙袋を優しく抱え込んだ。恐らく彼が言いたいことは、受け取らないのではなく遠慮してしまう可能性、なんだと思った。敢えてクリスマスプレゼントと表にすると変に気遣いしてしまうだろうと。

「そんな、浦原さんからのプレゼントならなんでも嬉しいです。本当にありがとうございます」
「……いえいえ」
「別に変な意味じゃないですよ」とはにかむと、視線を逸らした喜助は「わかってますよぉ」と飄々とした含み笑いで返した。
「──あっ!!」先ほどの喜助の言葉を反芻する。
「どうしました?」と問う彼に「いっ、いえ! なんでもないです!」と首を横に振った。

 竜ノ介と志乃の質問に肯定した喜助は、彼女の放った『褒美を与えて恋人は喜ぶ』も一緒に肯定したままでは、と。今更それに気づいても時すでに遅し。飛び交う会話の中で頭が回らなかったせいか、全く気づかなかった。大丈夫だよね、誤解されてないよね、と何度も自問自答を繰り返す。

 ──竜ノ介くんと志乃さんが勘違いしても、報告先はルキアだけだよね。きっと大丈夫、大丈夫。

 騒ついた気持ちを胸に、彼らが消えた方角を見つめた。ふと周りの空を見れば、夕焼けがあった空には星がポツ、と輝き始めている。それに気づいたゆかは、もうこんな時間、と我に返った。

「もう日が暮れますね。そろそろ帰りましょう? 皆さんが心配しますし」
「ほんとっスね、今日はあっという間でした。では、先ほどみたいに掴まって頂けますか? 時間がないものでまたズルします」
「はい、わかりました」

 ああそうだった。この場所に来た時と同じように喜助の服を掴む。無意識に取ったが裾が浅かったのか、喜助が「それじゃ振り落とされますよ」とゆかの腕を引き寄せた。

 目の前に広がる白いコート。──男の人の、喜助さんの香りだ。
 いつもと違う服装なのに、彼の香りは変わらなくて安心する。
 この至近距離も、あんなに緊張していたのに段々と心地よくなってきた。
 いつも冗談めかした態度で接してくれたお陰で人慣れしてきたのだろう。
 この安堵は、懐かしささえも感じさせる。

「ゆかサン? 行きますよ、いいっスか?」

 彼は無言で俯いていた自分を心配したようだった。

 ──ああまた瞬歩で帰るんだ。……というか、本当は戦闘で使う高度な歩法なのでは。

「浦原さん。本来、瞬歩ってこういう使い方していいんですか?」

 なんとも色気がない発言だ。男性に引き寄せられ、胸に頭を埋めながら聞くことではない。それは理解していたが、私的な移動方法のために力を使わせて良いものか、と良心が小さく渦巻いた。

「何事も臨機応変にっスよぉ。でも、夜一サンにはナイショでお願いしますねん」
「ほんとはダメなんじゃ……」
「はーい、行きますよー。舌噛みますよー」

 本当に舌を噛むかもわからないので、大人しく閉口した。

 ふわっとした浮遊感を感じ、動いた、と思ったら移動が完了したようだった。秒速ほどで浦原商店の目の前に到着し体を離そうとする。あれ、体が動かない、そう思ったのは一瞬で。すぐに喜助の腕から解放された。瞬歩した後は体が硬直するのか。それとも、瞬歩を初めて体感して上手く感覚が掴めないだけなのか。まだまだ学ぶことは多そうだ、とゆかは霊力について考えさせられた。二人で浦原商店へ戻ると、待ちくたびれたような声でみんなが帰りを迎えてくれた。

 楽しさ溢れて心躍った一日は、長いようで瞬く間に過ぎ去って。借り部屋へプレゼントを置いた。
 こんな心嬉しい日が続けばいいなと、淡い希望を胸に今日を終えた。

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