「あのぉ、ゆかさんのその袋って……ひょっとして現世のあれですか? 十二月には聖なる日という大層な行事があると朽木副隊長から教えてもらったんですよー。……ええと、何て言ったかな」
「くりすます、でしょ? 聞いたそばから忘れて。その日に褒美を与えて恋人は喜ぶのだ、と」
竜ノ介と志乃の説明を真面目に聞いてしまい、ゆかは勢いよく赤面した。顔を隠したいくらいだが生憎、両手が塞がっていて赤面症が露わになっているだろう。ルキアの解釈はあながち間違ってはいないのだが、些か語弊がある。説明してもいられないので、仕方なくその解釈前提で進めた。
「そんな、違いますって! これはその日とは全く関係なく、私と浦原さんもそんなことは一切無くてですね、」
耳まで真っ赤にして全否定するゆかに二人は顔を見合わせ、やってしまった、と慌て始めた。
「私たちはてっきり、勘違いしてしまって。すみません!」
「今の朽木副隊長から聞いたってことは、内緒でお願いしますー!」
こちらののやり取りを傍観していた喜助は、あはは、と大きく笑った。
竜ノ介と志乃は、なんとも珍しいものを見た、というような表情をしている。
「いいっスねぇその話。当たってますよ。これはクリスマスプレゼントってやつですから」
予想だにしない発言に目を丸くした。目の前の二人もキョトンと喜助を見上げる。
すると彼はひょいとゆかの抱えていた紙袋を持ち上げ、事もあろうか説明し始めたではないか。
「今日買ったのはっスね……」暴露が聞こえると同時に、ゆかは泡食って声を被せた。
「なっ中身はダメですー!! こっこれは秘密で!!」
両手で紙袋を上から押さえる。
見られたら色々面倒だし、尸魂界に戻って何を話すかわからないし、即座に開封を阻止した。
直後、タイミング良くどこからか変な鼻歌が。近くで歌っているような声だ。
──これってもしや、竜ノ介くんの……。
「あんたね……! いつまで伝令神機の着信音を私の鼻歌にしてるのよ!」
当の竜ノ介は志乃の言葉を華麗に躱しながら、伝令神機の画面を見つめた。
「あっ、では僕たちもう行きますねー。またよろしくお願いします」
「無視すんな竜ノ介ぇ! ……では。お邪魔しました!」
バタバタと暗みがかった夕焼け空へ二人が浮上していくと、任務へと消えていった。
空に向かって「またねー」と手を振って見送る。
「朽木サンによろしくっスー」
喜助も手を振ると、遠くで「はーい」という竜ノ介の声が響く。
あの子達も空座町を護ってくれているんだと思うと、自分も頑張ろうと思えた。
「ところで、浦原さん」
「はい、なんでしょ?」
「さっきのことって、本当ですか?」
竜ノ介の問いに対して否定したのに、肯定されたこと。
「ああ、今日の買い物っスか? そっスね、クリスマスプレゼントになります」
あっけらかんと言い放った喜助。
彼らに中身を見せようとしていた紙袋を、はいどうぞ、とこちらに戻した。
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