「あーっ、いました! 浦原喜助さんですね! 志乃さん当たりです! 志乃さんいましたよ!」
「うっさいわね、一回言えばわかるわよ! さっさと行きなさいって!」

 急な大声にビクッとゆかの肩が揺れる。振り返ると男女の死神が空に立っていた。志乃、と呼ばれた娘の髪には小さな傘を模した朱色の髪飾りがついており。そして隣には喜助の名を叫ぶ男の子が。彼は左右合わせて五つの髪留めをきらりと光らせ、垂れ眉に眠そうな目でこちらを見下ろしていた。呼ばれた喜助は彼らに驚くこともなく、落ち着いて返答する。

「おや、さっきの。アタシのお客さんっスねぇ。こりゃまた何でこんな処に」

 男女の死神は屋上に降り立つ。即座に男の子が八の字眉を更に困らせて喜助に近寄った。

「僕と志乃さんは、浦原さんに用があって浦原商店へ行ったんですが、本日閉店とあって……お店で途方に暮れていたら、四楓院夜一さんにこの辺にいると聞いて探していたんですよぉ……」

 腰に手を当てた女の子が、すかさず「今日はいつもと違って妙な格好してるわね」ぼそりと放った感想をゆかは聞き逃さなかった。

「そうでしたか、ご足労をおかけしまして。行木サンに斑目サン、アタシを探してまで何をお求めで? 商品は店にしかないっスよー」

 確かに急用なのだろうかと、喜助の横で紙袋を抱えたゆかは会話に聞き入る。
 男の子は「えーっと」悩まし気にこちらを一瞥して続けた。

「その前にですね、この方は黒崎さんのお友達ですか……? 僕達の話をしている時点で視えてるみたいですし。ホント、空座町ってそういう人とか虚とか多いですね……来るの怖いですよもう」
「あんたは一人でベラベラ喋り過ぎだっての! お姉さん固まってるでしょ!?」

 会話を振られたゆかは荷物を抱えたままニコ、と会釈した。

「ああ、彼女はゆかサンです。そっちでもう耳にしてません? こちらの状況」

そう告げると、死神二人は「あっ!!」と声を揃えて首肯いた。

「貴女が神野ゆかさんですか……! 失礼しましたぁ」
「ごめんなさいっ。急に竜ノ介が押しかけて、驚かせてしまって」

 なになに、なんで状況も疎か自分の名前までも知っているんだ。
 ゆかは訝しみつつも、一方的に知られているとはこんな感じなのか、と一人で納得した。

「そうです、けど……? あ、初めまして」

 とりあえずぺこりと挨拶を交わす。
 自分だけが状況が把握できていないようで。喜助に視線を送り、助けを求めた。

「スミマセン、ゆかサン。こちらの状況は逐一あちらさんに報告してるんスよねー。あ、尸魂界っていう彼らの住む処がありましてね、そこにっス」

 その言葉に「へー」とだけ返した。にしても尸魂界の説明が些か雑すぎやしないだろうか。

 ──いや、知っていたからいいのだけれども。それに竜ノ介も志乃も何度か拝見していた。なんとなく十三番隊の隊士たちだと気づけて良かった。ただ、あまり印象にないのは胸中で小さく詫びておく。

「今、僕の隊では貴女の話題が熱いんですよぉ。死神でもないのに体の中に虚が入ったまま生きていて、急に霊力が大きく成長した大吉を引いたような人間だって!」
「ハハハ」と堪らず苦笑するゆかとは対照的に、喜助は「報告の要約が上手いっスねぇ!」と手を叩いて喜んでいる。

 ──死神は基本みんなポジティブなのかな。これが大吉、だといいけど。

 ボフッと鈍い音がすると、志乃が竜ノ介の顔面をサンドバッグのように殴っていた。
 紙面上では良くある光景だが、実際に目の前で見ると実に痛そうだ。

「あんたはッもう! 本当に失礼な奴! いくら本当でもそのまま言う奴がいるか!」

 握り拳を構えた志乃は竜ノ介を叱っていた。

 ──あ、そこは本当なんだ……。

 ゆかは自身の置かれている状況に、知らない所で大事になってるみたいだなあ、と他人事のように受け入れるも「いひゃい」と言う竜ノ介の頬の腫れ具合に感心が向けられた。

「私から言いますけど。丁度その件について、言付けを預かってきてまして」

 志乃の一言に、喜助の目つきが変わったようだった。

 彼の些細な表情の変化に気づくようになったのは、吉なのか、或いは凶なのか。

「ほう。言付け、とはなんでしょ?」

 痛そうに頬をさすっている竜ノ介も話し始めた。

「『ゆーひょうなこほを』」
「いいからあんたは黙ってなさい」彼に代わって志乃が続ける。
「えっと、『悠長なことを言っている場合ではない』とのことでした。私たちはなんのことか知りませんが、浦原さんにはわかるのでしょう?」

 これにはゆかにもさっぱりで、眉間に皺を寄せる。
 言付けを受けた張本人は少しだけ押し黙ったあと、口を開いた。

「……事情はよーくわかりました。お二人とも、伝言ありがとっス」

 わあ、さすが喜助さんだ、と感心の眼差しで見上げた。
 志乃と竜ノ介も同じように喜助を見ては、「とんでもないです」と謙遜していた。

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