喜助に「さ、行きますよ」と急かされ、二人で近づいていくと、大きく貼り出された英字の看板が目に入った。そこにあるのは『OUTLET』の文字。

 ──アウトレット、だよね?
 自分の知ってるアウトレットで意味は合っているのだろうか。

「浦原さん、ここって、女子の買い物とか、そういう感じのところですよね?」
「そっスねぇ、男物もあるようですが」
「えーと、そういうことじゃなくて。買い出しというよりは、ショッピングみたいな」
「そうっスけど? はーい、着きましたぁ」

 喜助の意図が掴めず、その敷地へ入るのを迷う。男物もあると言っていたし、彼も何か欲しいのだろうか。疑問が浮かぶと同時に、だから今日は洋服を仕立ててもらったのか、と一人頷いた。確かにこの場で作務衣と下駄では目立ってしまう。
 未だにどうしたらいいかわかっていないゆかに、喜助が小さく笑って事の詳細を伝え始めた。

「ゆかサン、お好きなお洋服を選んで下さい。何着か駄目にしてしまっていますから」

 何着か駄目にしてしまっている、それを聞いてゆかは思い出した。虚に襲われた際にお気に入りのコートは切り刻まれ、中に来ていた服も裂かれて使い物にならなくなったことを。でもそれは喜助が気負いすることではない。そもそも虚がしたことであって喜助はむしろ助けてくれた恩人なのに。しかし、驚いた。喜助さんがそんなことを考えているなんて、とおもむろに隣を見上げる。

「アタシだってそういうことくらい考えますよ。ま、お金は店の経費とするんでお気になさらず」
「なっなにも言ってないじゃないですか! ……あ、でも経費にするのはだめですよ」

 悪徳企業です、と続けた。彼への意外性は図星だったが秘めておく。いつまでも建物の外でああだこうだ躊躇しているのを見兼ねてか、喜助はゆかの背中を押しながら建物内へと踏み入れた。

「ほんと、好きなものでいいっスから。遠慮しないで下さい、今日だけは」

 ここで断ってしまっては喜助を困らせるだけだと観念した。
 ご厚意と受け取りながら「わかりました、ありがとうございます」と深々とお辞儀をする。
 アウトレットなんてそんな来ないし、洋服の買い物なんて此方の世界に来てから初めてだ。

 ──それを喜助さんと来るなんて、しかも、洋服姿の。

 ちらっと再び彼を一瞥する。当の本人が「はい?」と首を傾げたので、慌てて何でもないようにお店を探す素ぶりをした。

 ──この状況って、これって、まるで、

「まるで、デートみたいっスねぇ」

 今まさに頭に浮かんでいたその言葉を、喜助が唐突に言い放った。

「えっ」
「あれ。思いませんでした? アタシはそう感じましたけど」
「側から見たら……そう見えますかもね? 私はどうか知りませんけど、」
「相変わらずっスねぇ、ゆかサン」

 そう見えますかもねってなんだ。咄嗟の日本語が不自由すぎて自分で放っておいて後悔した。
 ああもう本当に可愛くない。終いには相変わらずと言われてしまう始末。
 可愛いを演じたい訳じゃないものの、もっと自然に振る舞えたらと思う。顔が火照ってしまって仕方ない。

「どうぞ、お好みのものを選んで下さいな」
「お言葉に甘えさせていただきます、浦原さん」

 未だ照れながらも、ゆかはいろいろなお店を見て回り始めた。
 あれも可愛いこれも素敵、そう思いながら手に取っては違うお店でも見ていく。
 喜助はお店の外で待つことなく、楽しそうに選ぶゆかの後ろをついて回った。

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