「ただいまっスよー」
「戻りましたあ」
帰るや否や、奥からドタバタと足音が響く。
「喜助! 神野を連れ出して朝帰りとは、随分と偉くなったのう……。お主ら、どういうことか説明してもらおうかの」
「夜一サン! これには深ーいワケがありましてぇ、実は……」
怒っている夜一を尻目に、喜助は扇子片手に調子の良いことをあれよあれよと言い始めた。
間違えてはいけないと慌てふためいて止めにかかる。
「何もないですし! あっ朝帰りなんて、思ってないですし! たまたま私が爆睡して時間が朝だったってだけで、その、」
「はっは、だそうじゃ。一晩共に過ごしたというのに残念じゃったな喜助。神野は正直じゃの」
夜一の言い方に、それも誤解だ、と告げると喜助は少し残念そうに眉尻を下げた。
「浦原さん、そんな顔しても誤解は良くないですよ。実際、一晩共にしてないんですし」
きっぱりと言い張ると、夜一はやり取りを見て微笑んでいた。
「お、そうじゃ。お主らに客人が来ておる。先ほど来たばかりじゃが、待たせては失礼じゃ」
入り口での立ち話を切り上げ、急いで中へ上がる。
すると右の和室の戸が引かれ、その客人が廊下へひょこっと顔を出した。
「あっ黒崎くん!」
「おー、元気か?」
口角を吊り上げた夜一としゅんとした喜助を余所に、廊下を駆けて右の和室へ入る。
一護がちゃぶ台を前に胡座をかいて座っていた。その対面にゆかも腰を下ろす。
「待たせてごめんね、どうしたの?」
「いや、俺がついでに寄っただけだ。浦原さんから療養してるって聞いてさ。見舞いに来たけどよ、元気そうじゃねーか」
ついでに寄ったのに見舞いに手土産もある。なんと作り話が苦手で律儀な子だろうか。
一護は素直で優しい。胸にじわりと広がる安心感は、とても十代とは思えないほどで。
「そんな、黒崎くん。来てくれてありがとう。すごく嬉しいよ」
彼の気遣いと温かさが心から嬉しかった。こちらの世界に来て、最初に言葉を交わした異世界の彼。ユウレイを対処してくれたり、霊圧の変化で電話をくれたり。そりゃ織姫も惚れるわ、と納得しながら感心の眼差しを送った。
「見舞いなんてフツーだろ、そんな大層な事してねーよ」
当たり前のことをしただけと言う一護は、視線を廊下に移してから「あ、」と零した。
「ご無沙汰っス、黒崎サン。お待たせしたようで」
扇子を広げた喜助が同じ部屋へ入る。帽子を深くかぶっているからか、その表情は窺えない。
「おう、ゆかさんが元気そうで安心したよ。ありがとな、浦原さん」
喜助に礼を言う一護はきっと虚襲撃に対して気負いしているんだ、とゆかは申し訳なく思った。
喜助は「いえ、何もしてないっスから」といつものように返答すると、ゆかの左隣へ腰を下ろして円卓を囲った。それにしてもこの二人、妙に余所余所しい気がする。初めて二人が揃うのを見るからか、それとも気のせいだろうか。
もしやひょっとして私はお邪魔かも、とゆかは片膝立ちで体を立たせた。
「えっと、あの、私あっち行ってましょうか?」
「なんでだよ。見舞いに来てんのに、本人が席外すつもりか?」
「いえ、滅相もないです。居ない方が話しやすいこともあるかと思って」
「変な気を使い過ぎなんスよ、ゆかサンは」
そう二人に説得されると、すぱんと戸が引かれて夜一も続けて入って来た。
「なんじゃ、神野はまだ儂らに遠慮しとるのか? もう少し肩の力を抜け。気楽にのう」
気を使うなと言われても使ってしまう。
この三人と居たら自分なんて世界の異物過ぎて違和感が拭えない。
「努力します、はい」
彼女の半命令形に対し率直に肯くと、夜一も喜助の向かい側へと座った。
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