今日も小鳥が可愛いな、と縁側に毛布を持ってきて外を眺める。傍から見たら間違いなくぼけー、としているように見えるだろう。最近は眠りが浅いせいか睡眠不足も重なって余計に頭が働かない。

 ──今日は風もなくて、ぽかぽか陽気だなぁ……眠くなる。

 さっきまで自分はナマケモノのようだなと自覚していた。本当に怠けっぱなしであるから言い訳はしない。だが今は、少々焦っている。

 ──って呑気な事考えてる場合じゃないんだけど。

 それは数日前のこと。
 気がついたらまた布団で目覚めた。再び倒れたのか何なのか、横になっては意識を戻す出来事が立て続けに発生して、正直うんざりしていた。目覚めた時の記憶は不確かで、夜一達が早く戻ってこないか待ちくたびれていたところで途切れている。未だに全く思い出せないが、幸い、悪夢は訪れなかったようだった。自分のことだ。きっと立ちながらにして爆睡という荒業に出たのかもしれない。そうして暫くまた夜一達に看病してもらい、安静にして、起きたら読書をして、とそんな生活に戻ったのだが。ふと、鞄から本を取り出す瞬間に、ようやく気づいた。

 ──喜助さんの、御守りがない……。

 気づいた時は愕然として、傷だらけの鞄を漁りまくった。
 まさに膝をついて項垂れる格好をしていた、と思う。
 何度か鞄を触っていたはずなのにどうして今になって、と肝が冷えたのを感じた。
 性格上、普段から目的のものしか眼中に入っていないので、本を取り出しても全く気づかなかった。いつからないのかと自身の記憶力と戦ってみたものの、全く答えは出ず。自分は比較的なくし物は少ない方だと自負していたのだが、どうやらそれも自称に過ぎなかったようだ。そもそも失くしたことに気づいていないのが現状で、その自称も無意味なものとなった。むしろ知らないだけで紛失物は結構あるのでは、との疑念を持つに至った。
 傷だらけの鞄となれば、やはり。あの虚の襲撃にあった時にでも引き千切れてしまったに違いない。その憶測へたどり着いたのが、さっきだった。

 そして、今。
 いつ外へ出て探しに行こうか、と夜一並びに喜助の目を盗むタイミングを見計らっている。

 ──散歩したいなあ、なんて言ったら、どっちかついてくるし。

 はあ、と溜息を零しては、縁側で足をばたつかせた。

 ──それにそろそろ、家の荷物も持ってきたい。

 この浦原商店でお世話になり始めたが、長い間居なければならないのなら、少しくらい私物も欲しい。怪我が治るまでと言われているが、いつ完治するのかは知らされていない。
 あの夜から運ばれたままなので、もちろん携帯の充電も切れ、服も借りている。はあー、と二度目の深い息が外へ出て行った。

「おや、若い女性が溜息ばかりついて、どうしたんスか? ゆかサン」

 ふらっと立ち寄ったような言い方。振り返るといつもの帽子と羽織姿の喜助が近づいてきた。

 ──若い女性……ね。

 何百年も歳下となると、真面目なのか皮肉なのか。若干返答に困ったが、それよりも外へ出たい気持ちが抑えられず、膨れっ面で答えた。

「深呼吸です、しんこきゅう! 外の空気吸わないと、しぼみますよ、私」

 すると扇子を翳した喜助が黙ってゆかを見下ろす。
 どうせまた駄目っスって言うんでしょ、と頭の中で声を想像した。

「仕方ないっスねぇ……。行きますか? 外」
「え! いいんですか?」予想外の返答に、思わず即答してしまった。
「いいっスよん、アタシと一緒なら」けれども早速、言葉を詰まらせた。

 ──えーっ、意味がない。

 ゆかの口は『え』の字を開いたまま固まる。
 御守りを探したいし、家にも帰りたい、つまり一人で外出せねば意味がなかったのに。

「アタシと出るのは嫌っスか?」

 そんなに表情が隠せていなかったのか、喜助に図星を突かれてしまった。本来の自分なら喜助と一緒に外出なんて駆け回るほど喜んでいてもおかしくはない。いや、今でも十分嬉しいのだが、その感情よりも、探し物への義務意識が勝っている。

「い、嫌じゃないっす、とんでもない!」

 慌てて取り繕ったら口調が移り、恥ずかしくも自滅した。
 ご一緒できて嬉しいです、とは言えないものの、逆に勢いよく行きたさをアピールしたように聞こえただろうか。歪曲されて伝わったらと思うと、羞恥心が増した。

「アタシの真似は似てないっスね」
「似せてないですし?」

 軽やかに笑いながら喜助に弄られる。どうやら冗談と思われたようで一安心した。すると彼は縁側近くの部屋から、外出用の暖かい洋服を持って来て、着替えるように告げてきた。

 ──ほんとに二人でお出かけするの、か。

 散歩に行くだけなのに、妙に心が騒ついて、着替えを持ったまま俯いた。

「支度しないんスか? 手伝いましょうか?」

 彼の言葉に、はっと視線を戻した。

「一人で着替えられますよ、変態ですか浦原さん」
「ひどいっスよー。心配したんじゃないスか」

 ま、こんな包帯まみれの着替えなんて見てもね、なんて心の中で密かに自虐した。実際こんな物を見せたら興醒めもいいところ。いや、醒めるほどの興が湧き上がる訳がないか。なんて内心で嘲笑って自虐心を秘めていると、喜助は支度が終わったら店先に来るようにと言って、すぐに縁側から去っていった。


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