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 夜一はゆかの家の周辺である物を探していた。そこは丁度、彼女が襲われ喜助と合流した場所。

 ──『浦原さんの御守りを頂いて、本当に本当に嬉しかったんです、私』

 ゆかの嬉しそうな顔を思い出しては切なくなる。

 ──直ぐに、探して戻る。

 そうして夜一はマンション周辺を駆け回っていた。黒猫の姿ともなれば、低く狭い場所も容易い。きっとゆかはあの御守りをただの幽霊除け程度にしか思っていないだろうと夜一は考えていた。実際にあの御守りにそれ以上の効果が仕込まれていたとしても、知る必要はない。けれども彼女は本当に嬉しそうだった。ただの御守りだと言うのに、たくさん感謝していると。あの時に鞄から引き千切られていたことは、まだ気づいてくれるなよ、と願う。そろそろ喜助も店に戻っている頃だろうし、探す時間はたっぷりとある。そう思った途端、カランコロンと聞き慣れた下駄の音が響いた。

「夜一サン? 何してんスか、こんな処で」

 店に居るべきであろう奴が目の前に現れ、心底驚いた。

「喜助こそ、店に居るはずじゃろう。儂は……野暮用じゃ」
「へぇ、ボクは探し物っスよ。店はテッサイが結界張ってくれてるんで、暫くの間は大丈夫かと」
「もしやその探し物、神野にくれた御守りじゃなかろうな?」
「アラ、お見通しっスか?」

 夜一は、まさか此奴と思考が同じとは、と改めて昔馴染みの腐れ縁を感じた。

「あれがないと、ゆかサンが心配なんスよ」
「幸い、神野はまだ無くした事に気づいとらんはずじゃ。さっきまではその様な口振りじゃった」

 そう言うと、喜助は紛失に気づいていないことに安堵したようだ。だがその目の奥は翳り、暗い。

「喜助、お主も人の心配をするんじゃな」
「酷いなぁ。ボクだって夜一サンの心配もしてますって!」

 備えあれば憂いなしっス! と、いつもの調子で扇子を構えた。
 それに夜一は「憂いておる奴が言う台詞じゃなかろう」と呆れ返った。

 ──瞬間、二人の表情が即座に強張る。
 何やら激しく強弱のある霊圧を感じ、二人はその方向を凝視した。

「なっ、なんじゃ一体、」
「これはこれは。思ったより早かったっスね……」

 その不安定な霊圧の方角には、浦原商店がある。信じ難いが店で何かあったのか。
 二人は探し物を二の次にして店へ戻ることにした。同時に夜一は家を出たことを悔いた。喜助が直ぐに戻るはずとの予想を見誤ったばかりに、ゆかが何かに巻き込まれたのだろうと。病みあがりな上、不慣れな事象を理解するにはまだ早過ぎたかもしれん、と苦虫を噛み潰したような顔で喜助の後を追った。
 店の前に着くと、夜一は戻ろうとする喜助の上に飛び乗り、呼び止める。

「先程の物言い、これも予測の内だったか?」
「……はい。まだ不確定な部分もありますが」

真っ直ぐ真っ直ぐ店の奥を見据える。

「そうか。悪かったの、儂が店を出たばっかりに」

「ボクが先に言っておくべきだったんスよ、たとえ憶測でも。夜一サンが気負いすることじゃありません」

 夜一は後悔の念を秘めたまま喜助の肩から降り、奥の部屋へと走っていった。

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