小話 | ナノ

君は腐ったバニラビーンズ



※盗賊現代パロ
(サン+子イヴェ)







 無償に、腹が立つ。

 ……何がってそんなもの、目の前の異物に決まってる。

「……お前まだかよ、遅いな早くしろよ」
「こンのクソ餓鬼……」

 つい先日から俺の家に居候し始めたチビがいる。名前はイヴェール。癖の強い銀髪を後ろで束ね、稀有な緋と蒼の双眸を持つ西洋人形のように見目麗しい子供だ。だがその実かわいらしいのは外見だけで、中身は憎たらしい唯の餓鬼だ。先日初めて逢った時も、女だと勘違いして「イヴェールちゃん」と呼べば脛に蹴りを入れられた。あれはマジで痛かった……じゃなくて、まるで躾のなっていない反抗期真っ盛りのコイツとこれから暮らさなければならないらしい。勿論全力で拒否したが、この子供を連れて来たサヴァンには借りがあるものだから口で逆らうことはできず、渋々受け入れてしまったのだ。事の発端であるその張本人は暫く仕事で国を発つとかなんとかで仕方なしに俺の所にこの子供を預けたらしい。……隠し子かと思ったが、鼻で笑われた。

 今日は俺は高校、コイツは小学校に行くことになっている。どうやらエスカレーター式の俺の学校の初等部らしく、子供にとっては普段の通学路が変わったので道が分からず自然と俺と行く羽目になる。既に家の玄関で悪態をつかれて苛立っている所だが、如何せん放っておく訳にもいかない。

「誰が餓鬼だよ」
「立派な餓鬼じゃねーか」
「……ふんっ」

 子供扱いされるのが心底嫌いなのか、俺が靴を履いている間に横を摺り抜けて勝手に玄関の扉を開いた。ふて腐れたような表情は何時ものこと。

「反抗期早過ぎるだろ……」

 小さくぼやきながら靴を履き終えて俺も外に出ると、子供は数メートル程前方で振り返って俺を睨み付けていた。……コイツ、地獄耳だ。

「反抗したくもなるよ。こんな馬鹿みたいな奴の処に俺を置いて、サヴァンは何考えてんだか」
「誰が馬鹿だ、誰が」

 頭を小さく小突いて追い抜かすと、開いた距離を詰めすぎず離れすぎずといった要領で追いかけてきた。決してすぐ隣には並ばず、横目でまた睨み据えてくる。

「お前に決まってるだろ、白いの」
「いい加減その口縫ってやろうか……?」
「幼児虐待で訴えられても良ければお好きにどーぞ」

 本当に口だけは小学生とは思えない程饒舌だ。育ての親があのサヴァンと聞けば自ずと理解はできるが、流石に腹が立つことこの上ない。だが、世話をしなければ咎められるのは俺だ。自然に、深い溜息が零れた。

「……帰り、迎えに来れるか分かんねぇけど、大丈夫か」
「別に道なんて一回通れば覚えれるよ。お前みたいに馬鹿じゃないし」
「オイ、っつーかいつから俺が馬鹿って決まったんだよ餓鬼」
「見た目」
「……」

 ああ、我慢、我慢だローランサン。相手はまだ小学校に上がったばかりの子供なんだから、年上の自分が抑えを利かせなければこれから到底やっていけないだろ。そう心に何度も言い聞かせていると、眼前に何時もの校舎が見えてきた。すると子供は早歩きで前に出て俺をちらと一瞥し、そのまますたすたと歩いて初等部の校舎に消えていった。此処まで来ればもう俺は用無しですか、そーですか。また、深い溜息が自然に零れた。



 とりあえず、可愛くねぇ。




end.







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