息が止まる5秒前 ※サンイヴェ 「ローラン、サン……」 熱を帯びた吐息と共に紡がれた名前。上気した頬、掠れたか細い声。日が落ちた暗がりの部屋に谺するその艶やかな声が、脳を、感覚を、理性を狂わせる。 「寒、い……寒いんだ…」 首に回される腕。見上げてくる瞳。その緋と蒼はとろんと潤んだまま、朧げな光を灯している。霞んで消えてしまいそうな儚さを湛えるそれに相俟って、朱の射す目元が可愛らしく見えて仕方がない。今にも崩れ落ちそうな肢体を支えながら、どちらからともなくベッドに倒れ込むとギシリとスプリングが派手に声を上げる。寒いと告げる割に酷く高い体温は恐らく風邪か何かの所為。だが何もかも忘れて、組み敷いた彼の首に顔を埋める。 「……っ、」 首に舌を這わせれば背筋がしなる。次いで甘い吐息が小さく漏れ、耳元にかかる。その吐息の代わりと言っては何だが、可愛いと彼の耳元で囁いてやれば今度は擽ったそうに顎を引いて肩を竦めた。それがまた可愛らしくて仕方がない。そのまま耳殻を舐めあげると、艶を帯びた声がまた小さく漏れた。どんな表情を浮かべているのか気になり顔を上げて覗き見れば、月明かりに照らされる白い頬が俄かに紅潮している。だが、見られる事が恥ずかしいのか、ついと顔を背けられてしまった。本当に、素直なのか素直じゃないのか分からない。 「……イヴェール」 優しく名前を呼んで両手で頬を包み、こちらを向かせる。散々泳がせていた視線を怖ず怖ずと合わせてくれたのを確認して、額に優しく口付けてやると目をきゅっときつく瞑ってしまう。これから酷くされるとでも思っているのか、その仕種は微かな拒絶を示している。安心させるよう今度は瞼に唇を寄せれば、ぴくりと反応してまた瞳が露になった。 「……ゃ、…サン」 「何? 怖い?」 少し挑発気味に尋ねれば、意地を張るように小さく首を横に振る。その姿がやはり可愛らしくて、笑みを含みながら小さく唇を啄んでやった。すると、恥ずかしいのか嬉しいのか分からない表情を浮かべて、お返しと言わんばかりに小さく微笑まれた。それが、余りにも綺麗で不覚にも目が眩んだ感覚に陥る。ぼんやりとしていると、不意に唇に確かな熱が伝わった。同じように、触れるだけの口付けをされたと唇が離れてから漸く気付いた。それに煽られた訳ではないが、互いの存在を確かめるだけのような優しいそれは、もう終わり。押し付けるように、酸素を奪うように荒く唇を重ねれば、また甘い声に聴覚を支配される……―― 「…………っていう夢見た」 「気っ……持ち悪ぃな…!! 誰がそんなことするかよっ!」 「えー、折角イヴェール可愛かったのになー」 「それはお前の妄想だろ! 夢と現実を混同させんな欝陶しい!」 そんな馬鹿らしい夢の話を延々と聞かされていたイヴェールは何となく腹立たしくなって声を荒げた。だが、ローランサンは何故か少しばかり上機嫌でこちらに近付いてきた。そしていきなり肩を掴まれ、それはまぁ愉しそうに、笑った。 「つーことで、続き」 「なっ、阿呆か止めろっ! 触ん、な…っ!!」 end. -------------- オチはないです、はい← |