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 誕生日。
 それは生まれたモノ全てが持っている、特別な日。年に一度やって来るその日を、皆が祝ってくれる。

 帝人もささやかながら、池袋に来てから知り合った人たちにパーティーを開いてもらった。
 沢山のプレゼントをもらい、沢山のおめでとうをもらった。そして沢山のありがとうを伝えた。
 とてもとても幸せだった。

 けれど帝人は、すごく幸せなのに、酷く憂鬱な気持ちで家に帰った。
 皆の笑顔に囲まれた。
 離れて暮らす両親から電話で、おめでとう、プレゼントが後日届くはずだから、と言われた。
 帝人の人生で、一番幸せな誕生日だったはずだ。
 なのに素直に喜べない自分を認めたくなくて、でも認めざるを得ないこの状況に涙が出そうになる。
 帝人は時計を見た。今日が終わるまで、あと10分ほど。

 彼がいなかっただけだ。
 今日のパーティーに静雄は参加していなかった。言ってしまえばたったそれだけのことなのだが、帝人にとっては大問題だ。
 別にプレゼントが欲しいわけじゃない。仕事や彼のプライベートを疎かにして欲しいわけじゃない。ただ一言、電話やメールでもいいから、おめでとうと言って欲しかった。
 帝人は、携帯を開く。
 そこには、今日会わなかった臨也からの皮肉付きのおめでとうメールがある。他にも中学時代の友達やネットの知り合いから、同じような内容のメールが届いていた。
 けれど平和島静雄という名前は見当たらない。

 早く明日になればいい。そうすれば、この言い様のない孤独感は消えてなくなるはずだから。
「……もう、寝ようかな」
 明日を直前に、怖くなった。
 静雄におめでとうと言われなかったことが確定してしまう。帝人はそれが怖くて、時計から逃げるように布団へ移動する。
 その時。

 ピンポン、と深夜であることも考えずに鳴らされた玄関のベル。
 布団に入ろうとしていた帝人の動きが止まる。

 誰だろう。こんな時間に。
 そんなことを思ったが、帝人は分かっている。こんな時間にわざわざ家にやって来る人は数人しかいない。ただ、特定ができないだけで。
 動きを止めたままの帝人を咎めるように2度目のベルが鳴り、帝人は慌てて玄関へ走った。
 扉についている覗き穴を覗く勇気もなく、そっと声を掛ける。声が震えていたかもしれない。
「……どちら様ですか」
「帝人か?あーこんな時間に悪い、ちょっと……」
 相手が全てを言い終える前に、帝人は扉を開き見えた金髪に抱きついた。
 突然のことに驚きながらも帝人の体を軽く受け止めた静雄は、帝人の様子がおかしいことに気付き眉間に皺を寄せる。
 とりあえず中に入り座ったが、未だに帝人は静雄に抱きついたまま離れようとしない。
 どうしたものかと悩んでいた静雄だが、ふと視界に入った時計を見て驚いた。
「帝人」
「……何ですか」
 無視をされたらどうしようかと思ったが、返事があって良かった。
 帝人がそろそろと抱きつく腕を緩め静雄を見上げる。
「誕生日おめでとう、遅くなって悪かったな」
「……うぅ、静雄さん!」
「うぉ、泣くなよっ」
 静雄を見上げていた帝人の瞳いっぱいに涙がたまって今にも零れ落ちそうだ。
 それを見た静雄は焦るばかりで何も出来ずに、涙が落ちる瞬間に帝人を抱き締めた。
「何でこんな遅いんですか」
「……お前のプレゼントがなかなか決めらんなくて悩んでる時に」
 帝人の問いに答えずらそうに言葉を詰まらせる。なかなか先を言わない静雄に焦れたのか、帝人はその先を促すように服を引っ張った。
 静雄も今回は自分に非があることを認めているせいか、言いづらそうにではあるが言葉を紡ぐ。
「あのノミ蟲野郎にはめられてよ、なんとか抜け出してきたのが今だった」
 帝人の頭の上から悪い、と小さな声が聞こえる。それを断ち切るように帝人は言った。
「……プレゼントは?」
「あぁ、ちょっと目瞑ってろ」
 静雄は帝人の体を離しポケットから取り出したものを彼につけた。
「ん、いいぞ」
 帝人が目を開けると満足げに笑う静雄が映る。そして、首にある違和感に目を向けその正体を知り瞠目した。
 そこにあったのは銀色に光るシンプルなリングで、同じ銀色のチェーンがその輪に通されていた。
「サイズ分かんなかったから、首からかけるヤツにした」
「……ありがとうございます」
 帝人は少し腫れた目でふにゃんといつものように笑う。それに安堵した静雄が肩の力を抜きつつ微笑んだ。

「あー、間に合って良かった」
「本当ですよ。僕もう寝るとこだったんですからね」
「そしたら起きるまでずっと扉の前で待ってる」
「そんなことしたら近所迷惑ですよ」
「あ?追い出されたら俺ん家に来ればいいだろ」
「……そういう話じゃないです」
「そりゃそうだな。今からだって構わねぇ」
「もういいです……!」

 いつもと変わらない会話がひどく幸せだった。
 そして時計が終わりを刻む。



誕生日おめでとう!

(プレゼントは小さな独占欲)
(そして、当たり前の幸せを)


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