drrr!! | ナノ

 部屋でテレビを見ているときだった。
 帝人がサッカーを見たいというから、2人で観戦していた。
 テレビの前に置かれたソファーに背を預けて座り、胡坐の上に帝人を座らせる。背後から抱きしめるように腕の中に閉じ込めて、くすぐったいと身を捻る帝人の肩へ顎を乗せた。
 サッカーが好きなのかと尋ねた静雄に、自分は運動が出来ないから見ているのは好きなのだと、帝人は笑った。
 確かに、帝人の身体つきからすると運動が得意そうには思えない。ひょろりと細い腕や脚は日に焼けておらず、静雄が少し力を入れて握れば簡単に折れてしまいそうだ。
 だから帝人に触れる時はいつだって、力加減を間違えないように慎重になる。それに気づく度、帝人は、そんなに簡単に壊れたりはしないと苦笑するのだが。


 それから暫く、帝人の歓声を聞きながらぼんやりテレビを見ていた静雄は、ふと声がしなくなったことに気づいた。
「帝人……?」
 寝てしまったのだろうか。時計を見れば日付が変わった頃だった。眠っていてもおかしな時間じゃない。
 寝ているならベッドまで運ばなければいけない。こんなところで寝て、風邪でも引いたらどうするんだ。静雄はそっと帝人を見たが、静雄の心配をよそに、帝人はしっかり起きていたようだ。
「静雄さん」
「どうしたよ」
「手、見せてもらってもいいですか?」
「……別にいいけど」
 首を傾げながら、帝人の腹の前で組んでいた手を解き、目の前にかざした。
「やっぱり、すごく大きいですね」
「普通だろ」
「でも僕と比べたら……」
 手の大きさを比べたい帝人は、自分の手をぺたりと重ね合わせた。
「ほら、こんなに違いますよ?」
 帝人はこてんと首を傾げた。
 旋毛しか見えないが、その様子がひどく可愛いと思うのは、自分が彼を好いているからだろうか。
「そりゃ、お前と比べたらな」
 自分が素直ではない自信が十二分にある。褒められたものではないが、静雄はそういう自分を重々理解していたし、今更直そうと思うこともなかった。
「それにしても静雄さんの手は綺麗ですね」
 重ねていた手で静雄の手を掴んだ帝人は、じっと観察するように手を眺め始めた。
 素直ではない静雄と帝人が付き合えるのは、帝人が素直なおかげかもしれない。純粋な帝人と接していると、意地を張る自分が馬鹿馬鹿しく思えてくるから不思議だ。
「綺麗って、そりゃ男に使う言葉じゃねぇだろ。それに……」
 それに、この手は綺麗なんかじゃない。いつも、この手で、あらゆる物を壊してきたのだ。そんな手が綺麗なはずが……。
「綺麗ですよ!」
 帝人の声が、静雄の思考を途切れさせるように、強く響いた。
「指はすらっと長いし、関節がちょっと節っぽいのは男らしくってカッコいいですし。それに、とっても温かいです」
「……そうか」
「はい!」
 顔が見えなくてよかった。きっと、ひどく情けない顔をしているだろうから。
 静雄は握られていた手を握り返した。
「……帝人」
「何ですか?」
「サッカー終わったぞ」
「あぁ!? どっちが勝ったんですか?」
「多分、青いユニフォーム」
「あ、じゃあ日本が勝ったんですね! よかったですね、静雄さん」
「そうだな」
 2人は顔を見合わせて笑った。



触れた手のもり

(俺よりも、お前の方が温かい)




* * * * *
リクエストは「静帝でベタベタ」でした。
ベタベタの甘いヤツにするはずが、なぜだか途中でメンタルな感じに……。しかしまぁ、1.3倍増し(当社比)で甘くなってるはずです(笑)
リクエストありがとうございました!


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -