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 早朝。静雄の家に泊まった帝人は、珍しく静雄に起こされるまで熟睡していた。
「帝人、そろそろ起きねぇと遅刻すんぞ」
 起こす気があるのかと思うほど優しく揺するのは、昨夜無理をさせた自覚があるからだ。学校があるからと渋った帝人を半ば強引に押し倒したのはやりすぎだったと反省している。それに帝人は寝起きがいいので、声を掛ければ起きるだろうと思っていた。
「う〜ん……」
「帝人、おい起きろって」
 しかし予想に反して帝人はなかなか起きない。それどころか寝返りを打って、静雄に背を向けてしまった。
 仕方ない。静雄は溜息をついた。ぺちぺちと頬を叩いて、無理やり起こす。自分が学生だった頃は遅刻くらいどうってことなかったが、帝人は真面目だから起こさなかったら、どうして起こしてくれなかったのかと言うのは目に見えていた。
「ん、……」
「はよ、早く仕度しろ」
 むくりと起き上がった帝人は眩しそうに目をしばたたかせ、寝起き特有のとろんとした表情のまま静雄を見た。帝人の頭をくしゃくしゃと撫でた静雄は、自分も準備をしようと洗面所へ移動する。
 静雄が歩き出すとベッドから衣擦れの音がした。どうやらちゃんと目が覚めたようだ。静雄はそのまま部屋を出た。すぐ後に帝人の音がする。静雄が一歩足を出せば、後ろから2歩分の足音が響く。なんだかくすぐったい。
 洗面所で2人並んで顔を洗い、歯を磨く。帝人が泊まりに来ることが多くなった最近では、ある程度の生活用品は2つ1組で置かれていた。
 2人の間に会話はない。帝人はまだ眠いようでぼんやりしながら、それでも着実に作業を進めている。
 洗面所での作業が終わり、静雄は廊下へ出た。トイレへ行こうとドアを開けて中へ入る。後ろ手でドアを閉めようとしたが、ゴンと鈍い音を立てて何かに引っかかった。はて、何か引っかかるようなものがあっただろうかと静雄が振り返ると、帝人が立っていた。静雄は驚いた。よくよく見るとドアにぶつかったのか、額が少し赤くなっている。
 静雄は帝人の額を凝視しながら、声をかけた。
「……お前もトイレか?」
 帝人がコクンと頭を縦に振る。
 まだ寝ぼけているのだろうか。そうでなければ、帝人がこんなことをするのは思えない。
「あー、お前先に入れ」
 静雄は戸惑いながらも場所を譲った。
 便座に座ってそのまま寝るなんてことはないだろうな。トイレのドアが閉まり、静雄は向かいの壁に背を預けながらどうしたものかと考える。顔を洗ったのに、まだ寝ぼけている。いつもの帝人ならありえない。
 ぐるぐる考えていると、帝人はすんなりトイレから出てきた。ホッと息を吐き、入れ替わりに静雄が入る。
 まぁ、そのうち起きるか。判断力は低下しているが、生活に支障が出るほどではない。腹に何か入れれば嫌でも起きんだろ。そう判断した静雄は用を足し、トイレから出た。
「……お前、待ってたのか」
 ドアを開けた先の光景に、少し頭が痛くなる。静雄が立っていた場所に、帝人が立っていた。とりあえず手を洗い、キッチンへと向かった。もちろん帝人は後ろをついて来る。
 朝食は基本的に静雄の担当だ。だから困ることはない。しかし帝人がキッチンまで着いてきた時にはどうしようかと本気で悩んだ。とりあえずリビングのテーブルに帝人を座らせ、テレビをつけておいたが。
 食パンを2枚焼き、コーヒーを用意する。ベーコンを焼いて、その上で卵を焼き、ベーコンエッグに。自分用のバターと帝人用のイチゴジャムを冷蔵庫から出す。牛乳も忘れずに取り出した。それらをテーブルへ運ぶ。いつもなら帝人が手伝ってくれるのだが、今日ばかりは何度か往復して全て静雄が運んだ。
 ぼんやりテレビを見ている帝人は、寝ているようではないので一先ず良しとする。
 向かい合わせに座る。
「いただきます」
 静雄が手を合わせると帝人も手を合わせた。声こそ出さないが、寝ぼけていても挨拶をする帝人に思わず笑ってしまいそうになった。
 とりあえず、次からは気をつけよう。静雄は心の中でひっそりと呟いた。



寝ぼけた君のり込み学習

(それってヒヨコとか、生まれたてのヒナがするんだぜ)



* * * * *
リクエストは「帝人が静雄の後をヒヨコみたいに追いかける話」でした。
あはは、とりあえずすいませんでしたっ!!もうね、どうしてこうなった。寝ぼけた帝人は可愛いんだろうなぁ、という発想からここに至った経緯が知りたいです←
シズちゃんが朝食担当なのは、帝人は痛くて動けないからとかそんな理由だと思う。ヒヨコ感がなくてごめんなさい。
リクエストありがとうございました!


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