drrr!! | ナノ

 約束はなかった。行く宛も。ただ先へ進むだけ。
 もしかしたら何処かで会えるかもしれないと、淡い期待を抱いていたのは認めるけれど。
 帝人はそんな自分にクスリと笑った。
「なーにがそんなに面白いんだ?」
「!」
 突然投げ掛けられた言葉に帝人は思わず足を止めた。隣を見ると、そこには包帯を巻いた男が立っている。
「……確か、To羅丸の」
「そう、その六条千景。久しぶりだな。つっても、あれから1週間も経ってねぇけど」
 戸惑う帝人をしり目に千景はにっと笑う。
「今日はどうして池袋に……?」
 帝人の声が堅くなる。震える右手を握りしめた。
 彼は、自分がダラーズの創始者であることを知っている。それは知られてはいけないことであり、帝人の弱みになり得る情報だ。――まだ、自分が創始者だと皆にバレるわけにはいかないのだから。
「ハニーたちと遊びに来たんだけど、気が付いたらはぐれちまってて。今探してるとこなんだよ」
 帝人の緊張を見抜きながら、千景は大した用事はないと告げる。
「……そう、ですか。早く見つかるといいですね」
 腑に落ちない。帝人の瞳が雄弁にそう語る。しかし本人は心底同情しているように表情を作ってみせた。
 それを見た千景が苦笑を浮かべた。かなり警戒されてんな、まぁ無理もねぇけど。
「っていうのは嘘で、本当は……」
「――帝人」
 千景の話の途中で、帝人を呼ぶバリトンが聞こえた。話が中断されたことに気を悪くするでもなく千景と帝人がそちらを見ると、静雄がいた。
「平和島静雄か! 久しぶりだなー」
「……あぁ、あん時の。まだ怪我治ってねぇのか」
「怪我は大したことねぇよ。これはワイルドな俺を演出するための道具だ!」
「……よく分かんねぇが、大したことないならいい」
 静雄さんに喧嘩売ったんだっけ。帝人は目の前の2人を見ながら思い出していた。あの、一連の出来事を。
 静雄が薄く笑っている様子を見て帝人は切なげに眉を寄せたが、一瞬のことだったので談笑していた2人は気付かない。
「静雄さん! お仕事ですか?」
 会話の途切れを狙って帝人が問う。いつも通りの明るい笑顔で。
「あぁ。移動中にお前を見掛けたからトムさんに先に行ってもらった」
 そう言って静雄が帝人の頭を撫でた。力強く、けれど優しく。
「えぇ!? 大丈夫なんですか?」
「走ればすぐ追い付く」
 心配することはないと言われているようで、嬉しいような申し訳ないような複雑な気持ちになる。けれどやっぱり嬉しさが勝り、帝人は頬を緩めた。
「お前ら知り合いだったのか?」
 ふと、静雄が帝人と千景を見比べながら問うた。それは素朴な疑問だったのだが、帝人にとってそれはある種の脅威でしかない。静雄に対しては特に。
「……はい、少し」
 少しの間と歯切れの悪さ、曇った顔色を見ていぶかしく思うも、静雄は「そうか」と呟いた。
「ちょーっとした知り合いなんだよ。別に深い仲とかそんなんじゃねぇぜ?」
 それまで黙っていた千景が、帝人の肩を抱きへらっと笑う。
 静雄の目がすっと細くなったのを見て、帝人は舌打ちしたくなった。肩を抱く隣の人物を睨み付ける。
「止めてくださいよ」
「ははっ。悪い、悪い」
 小さく抵抗すると帝人からすんなり離れる。爽やかともとれる笑顔に(顔が包帯で覆われているせいでよく分からないが雰囲気的にはそうだ)悪意は感じない。
 これが彼の普段通りなのかは知らないが、静雄を怒らせようとしているように見えた。少なくとも帝人と静雄はそう捉えた。
 喰えない人だ。
 帝人が静雄へ話し掛けようとした時、ポケットから着信を知らせる音がした。
 この着信音は……。
「すいません、ちょっといいですか?」
 2人が頷いたのを確認して携帯を取り出す。慣れた手付きでメールを確認して簡単に返信した。
 残された2人は何を話すでもなく、流れるような帝人の指先をじっと見つめていた。
 携帯ポケットへ直した帝人は自分を見ていた2人に向き直り、申し訳なさそうに笑う。
「すいません。急用ができたので、僕はこれで失礼しますね」
「気にすんな。俺もそろそろ仕事に戻んねぇといけねぇから」
「残念。まだ話したいことがあったんだけど、また次の機会だな」
「はい、それじゃあまた」
 帝人は2人にぺこりと頭を下げるとパッと走り出した。メールを寄越した後輩とその仲間たちの元へ。



三千世界のを殺し
主と添寝がしてみたい

(そう詠んだのは僕か貴方か、それとも彼か)



「あ、言い忘れた」
「何をだ?」
「本当は俺、お前に会いに来たって言うはずだったんだけどよ」
「……へぇ」
 帝人の背中を見送った2人は向かい合った数瞬後、ほぼ同時に一歩踏み出し相手の横をすり抜けた。
「アイツはやらねぇ」
「アンタと喧嘩すんのはもうこりごりなんだけど。そうも言ってらんねぇか」
 背中合わせの状態で静雄が低く唸ると、負けじと千景も低く囁く。
 再び歩き出した2人は一度も振り返らず、人混みの中へ消えていった。



* * * * *
リクエストは「静帝六」でした。
タイトルは有名な都都逸です。解釈は高杉晋作説だと思います。ただ雰囲気は遊女説ですがw
うーん、ろっちーがイマイチよく分かりません。まだまだお勉強不足ですね。
リクエストありがとうございました!


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -