2人揃って夕食後のデザートを食べている時だった。
「何でこのプリンのカラメル、こんなに苦いんですかね?」
スプーンを口に食わえたまま、こてんと首を傾げた帝人。彼の手には静雄が買って来たプリンが握られている。
帝人の呟きに静雄は眉間を寄せた。そして自分の手にある同じプリンを睨め付ける。
「苦いか? これってキャラメルじゃねぇの?」
帝人の言葉に静雄は思ったことをそのまま伝える。
「んー、多分物は同じですよ? キャラメルは固形物でカラメルはソースのイメージがありますけど。詮のない言い方をすれば、どっちも砂糖を煮詰めたものですからね」
「ふーん」
結局は同じものだと結論付けた帝人に生返事をしながら、静雄はプリンをすくって口に運んだ。
口の中に甘いカスタードとほろ苦く香ばしいカラメルが広がる。
「俺はこれくらいが好きだけどな」
「えー、甘くないプリンはプリンじゃないですよ!」
どうしてプリン1つで帝人がこんなにも熱くなるのか分からない。
そんなにプリンが好きだったのだろうか?
不思議に思った静雄は軽く首を傾げる。
そんな静雄に気付かず、帝人は話を始めた。
「カップに入ってると下にカラメルがあって最後に苦味が残るんですよ?」
「皿に出せばいいだろ」
「それに、せっかく砂糖で作ってるのに、どうして苦くする必要があるんですか」
静雄の呟きも何のその、帝人は怯まずに断言した。
「そんなのプリンじゃありません!」
「……ガキか」
静雄が心底呆れたように呟く。
それにしてもここまで帝人が静雄に大声を出すことは珍しい。
何がそんなに気に入らないのか。
「何でそんなに怒ってんだよ?」
「……甘くないプリンはプリンじゃないんです」
「それは聞いた」
「なのに、なんでこのプリンは美味しいんですかぁ!」
帝人が一際大きい声をあげる。
そんなの卑怯です、僕は認めませんから、苦いのに美味しいのはこのプリンだけです!
未だに力説している帝人に、何の気なしに普段通りの返事をする。
「おう、美味いだろ」
実は内心、自分が買ってきたプリンが口に合わなかったのかとはらはらしていた静雄はにこりと笑う。
「はい、美味しいです。これ何処で買ったんですか?」
「あー、また今度買って来るから」
「……今、説明するのめんどくさがったでしょう?」
帝人はすっかり元の調子に戻ったようで、残りのプリンを食べながら笑っている。
「プリン買って来たら、またお前ん家にあがれんだろ」
「……プリンがなくても、勝手に来るじゃないですか」
「嫌なら控える」
「嫌じゃないです」
どうでもいいような問答を繰り広げた2人は、目を合わせるとクスクスと笑った。
プリンのカラメルは何故苦い
(でも大丈夫、その分僕らが甘いから)