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「静雄さん」
「なんだ?」
 突然呼ばれた自分の名前はいつもと響きが違った。それを気にしながらも静雄は普段通りに、素っ気ないともとれるほどの声音で返事をする。
「1つ聞いても、いいですか……?」
「……あぁ、構わねぇけど」
 ベンチに座る静雄の隣に腰掛け恐る恐る声を発しているのは、最近静雄と親交を持つようになった帝人だ。
 帝人以外の人間がこのようなはっきりとしない態度をとれば、間違いなくベンチが飛んでいただろう。静雄と犬猿の仲である臨也にもなると、話す間もなく飛んでしまうが。それを置いても、帝人は少しばかり特別だ。
 常にない帝人の様子に多少気圧されながら静雄は返事をする。
「静雄さんは、私服持ってないんですか?」
 そこで少しの間。
 思いもしなかった質問に静雄は咄嗟に答えられなかった。
 何を聞かれるのかと多少警戒していた静雄は、帝人の問いを何度も頭の中でリフレインさせやっとのことで質問の意味を理解した。
 帝人の真剣な目を見れば冗談や皮肉の類いではないことは一目瞭然だ。
 そんな帝人にふざけてんじゃねぇよ、とは流石に言えない静雄だった。
 それどころか妙な期待を寄せられているような錯覚さえ感じ、思わず唾を飲み込んだ。
 そして一言。
「持ってるぜ」
「で、ですよね。すいません、変なこと聞いてしまって」
 静雄の返事にふにゃりと笑った帝人は、眉尻を下げて軽く頭を下げる。
「いや、本当に持ってないとは思ってなかったんですけど」
 不思議そうな目をした静雄に帝人は苦笑したまま言葉をつむぐ。
「僕、静雄さんがバーテン服着てるとこしか見たことなかったから」
「……あぁ、確かに」
 帝人に言われた通り、会うのは仕事中かその帰りで、静雄はいつもバーテン姿だった。最近は私服なんて着て外に出ることは滅多にない。
「だから、どんな服着るのかなぁって気になって」
「……普通だと思うけど」
 静雄がぼんやり最近の服装について考えていると、帝人は少し照れながら話をくくった。
「静雄さんなら、何着ても似合うんでしょうね」
「……じゃあ今度私服で会うか」
 思わず伸びた右手で帝人の頭を撫でながら、口元がにやけるのを誤魔化すように口を動かした。
「え、いいんですか?」
「まぁ減るもんじゃねぇしな」
「やった!約束ですよ!」
「あぁ」
 にこにこと笑う帝人につられ、静雄も笑みを浮かべる。
 らしくねぇとは思ったが、たまにはいいかと思ってしまった。



今度の休みは私服デート




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