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※学パロ


 放課後の学校では、教室や廊下がひっそりと音をなくし、代わりにグラウンドや部室棟から音が溢れてくる。
 休み時間とは違った遠いざわめきが数学科準備室と名を打った部屋に響いていた。
 準備室の中では数学を担当している数名の教師が自分たちの机に向かい仕事をしている。参考書が溢れる本棚に、パソコンのディスプレイが白々と輝くその前に腰かけているのは平和島静雄だ。
 銀縁のシンプルなフレームをした眼鏡をかけ、教職に就く人間とは思えないほど派手な金髪をしている彼は、授業で使うためのプリントを作っていた。
 明日の授業の用意に、職員会議の準備もしなければならない。ああ、そういえば小テストも作らないと。仕事は山積されている。
 静雄が書類に手をかけた時、控え目に扉をノックする音が聞こえた。一番上にあった書類を目の前に移動させながら、静雄は扉の向こうへ入室を許可する声をかけた。
「失礼します。平和島先生いらっしゃいますか?」
「竜ヶ峰か、どうした?」
「すいません。質問があるんですけど、今大丈夫ですか…?」
 扉から姿を表したのは、静雄が受け持つクラスに所属する竜ヶ峰帝人という真面目な生徒だ。指定の問題集とノートを持った帝人は、伺うように静雄を見つめる。
「…おう。大丈夫だぞ、入って来い」
 視線がぶつかった途端に静雄が目を反らす。静雄はそれを誤魔化すように帝人に答え、机の近くに椅子を引き寄せ帝人の場所を作った。
「ありがとうございます」
 帝人は頭を下げると静雄の言うとおりに準備室へ入り、静雄が用意した椅子へ座る。椅子は机の横へ置かれており、90度の位置に座ることになる。
 隣同士ではないが、お互いの顔がよく見える位置だ。教科書を覗き込めば、ぐっと顔が近くなる。静雄は帝人が椅子へ座ったのを見て、机に置いたばからの書類を片付け始める。
「あ、すいません。もしかして忙しかったですか?」
 片付けられる書類に眉を下げながら机に教科書とノートを置いた帝人は、そっと静雄を見上げた。
「…お前が心配することはねぇよ。勉強を教えることが俺の仕事だ」
 図らずも上目遣いになる帝人に心臓の跳ねる音を聞いた。静雄はそれをおくびにも出さず、苦笑を浮かべ帝人の頭を撫でる。
「で、何処が分からないんだ…?」
「えと、この問2なんですけど」
 帝人は問題集を開き指差した。
 細い指に差された問題を静雄が覗き込む。
「あぁ、これはちょっと引っ掛けっぽいからな」
「ここまでは自力で解いたんですけど、その先がわからなくて」
 帝人は次いでノートを開き静雄に見せた。
「此処までできてんだったら、後は発想の問題だ。この式をこう展開して、出てきた解をここに代入すれば終わり。…わかったか?」
 静雄は紙とペンを取り出し、さらさらと数式を書きながら説明していく。確認のためにちらりと帝人を見ると、帝人は真剣に紙を見つめていた。
 その距離が存外近くて、静雄は小さく息を飲んだ。
「あぁ、そうするんですか!多分大丈夫だと思います。……先生?」
 ピタリと動かなくなった静雄を不審に思った帝人が、眼鏡の奥を覗き込む。
「…いや何でもない。あ、今此処で解いてみろよ。わからなかったらまた教えてやるから」
 帝人と目が合った瞬間に静雄は眼鏡の位置を戻すようにフレームを押さえ、顔を隠してしまった。帝人は首を傾げながらも、言われたとおりに問題を解き始める。
 なんとかやり過ごせたことに内心安堵し、静雄は帝人を見る。真剣なその顔は、やけに幼い。
 静雄は、真っ直ぐに己を見つめ優しく笑う帝人の笑顔が好きだった。真面目に授業を受けている帝人の、真剣な瞳に己が映ることが嬉しかった。
 可愛い生徒だった帝人に、抱いてはいけない気持ちを持ったのは最近だ。いや、静雄がそれを認めたのがつい最近の話であって、想いはもっと前からあったのだろう。
 しかし認めてしまえば想いは加速するもので。元々器用ではない静雄は、仕事だからと割りきることもできず、かといって生徒に手を出すことも躊躇われ、以前のように接することができずにいた。
「? どうかしましたか?」
 帝人は突然頬に触れた冷たい指に、顔を上げた。
「…っ、悪い。その…ま、睫毛が頬に落ちてたのが気になってよ!」
「わざわざありがとうございます」
 静雄は素早く手を引っ込め慌てて思いついたことを言う。帝人は何の疑いもなく笑いそれを受け入れた。
「いや、中断させて悪かった。続けてくれ」
 帝人が再びノートに視線を落としたことを確認し、静雄は息を吐いた。
 まったく恋というのは厄介だ。静雄は思う。目が合っただけで、指先が触れただけで、名前を呼ばれただけで、心臓が痛いほど脈打っていることが、不快ではないことに驚きながら。



甘く疼く、胸の痛み

(ただ君がそこにいるだけで)



* * * * *
リクエストは「生徒の帝人にベタ惚れな静雄先生」でした。なんか静→帝ですいません。
帝人も静雄先生が好きだと思うよ。そうじゃないと放課後にわざわざ質問しに行くとか考えられん←
あぁこの子たちホントに初々しいのとか焦れったいのとか、ほのぼのとか似合いすぎて困る。可愛すぎて困る。それを文章で表現できない俺が一番困るorz
リクエストありがとうございました!


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