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※同い年学パロ


 老齢な担任がHRに終わりを告げた。
 それと同時に静かだった教室は騒がしくなる。
 京平は軽い鞄を手に、早々と帰路につく。彼の背後では机を引きずる大きな音が、放課後を喜ぶ声を掻き消した。

 今日はこれからどうするか。
 生徒が溢れ出した廊下を、ゆっくりと進みながらこれからの予定を考える。
 部活動が盛んなことで有名なこの学校で、直ぐに帰る生徒は少ない。京平は人の少なくなった廊下を急ぐでもなく、殊更ゆっくりと歩を進めた。
「京平ー!」
 静かな下駄箱で下靴へと履き替えた時、背後から聞き慣れた声がした。京平は心持ち口角を上げ、しかし、瞬時に無表情を装うとゆっくりと振り返った。
 そこにいたのは、京平よりも小柄な少年だ。ところどころに跳ねている黒髪に、中学生を思わせる幼い顔つきが特徴的な――言い換えればどこにでもいそうな、ごく普通の少年だ。
「帝人か、どうした?」
 京平はいつも通りに声をかけた。
「どうしたじゃないよ!」
 京平を呼び止めた少年――帝人が、声を張り上げた。
 眉間にしわを寄せ京平を睨みつけている帝人は、どうやら機嫌が悪いらしい。それは、普段大人しい帝人が京平の名前を叫んでいることからも容易に察することができたが、彼の顔はより分かりやすく彼の心境を表している。
 京平が首を傾げたのを見て、帝人は口を開く。その口元が僅かにひくついた。
「今日は僕たち掃除当番なんだよ。何サボろうとしてるの」
「……あぁ、そうだったか?」
「惚けてもダメだからね。先週もサボったんだから、今日はちゃんとしてもらうから」
 きっぱり言い放った帝人は京平の手首を掴んで歩き出そうとした。
 しかし、体格のいい京平と比べ帝人は細い。その細い腕にいくら力を入れても、京平の意志反して彼を動かすことは不可能に近いのだが、それでも帝人は京平を連れて帰ろうと必死だった。
 京平はくくっと喉を鳴らして、自分を引っ張る帝人に声をかけた。
「帝人」
「何? 僕は絶対離さないからね」
「そうじゃなくてよ」
「いいから早く戻るよ!」
 掃除終わっちゃうと息巻く帝人に京平は苦笑する。
 帝人は学級委員をしている。つまりはそういう人間なのだ。人間自分が一番大事だ。だからと言って自分のために秩序やルールを守らないのは間違っていると思っている。しかし、帝人は自分の目的のためなら手段を選ばないこともあるのだ。京平がそれを知ったのは偶然だったが、矛盾を抱えながらも真っ直ぐに生きている帝人に興味を持った。
 そして気付いた。帝人をからかうのはおもしろいということに。
「俺、靴を履き替えないといけないんだが」
 帝人は勢い良く京平を見た。そして足元へ視線を動かす。京平の言うとおり、少し汚れたローファーが目に入り、次いでちらりと京平を見るとにやりと口角が上がったのが見えた。
 羞恥に顔を赤くした帝人は、その後一気に脱力した。
「…早く履き替えて……」
 辛うじて聞き取れるほどの小さな声を出した帝人。しかし、京平を掴むその手だけは力強い。
 京平は言われたとおりに、自由な手で再び靴を履き替えた。
 京平が上履きに履き替えたことを確認した帝人は「行くよ」と言い、先頭を切って歩きだす。今度は京平も素直に手を引かれながら教室へ向かった。

 教室が近づくにつれ、人が多くなる。換気のために開けられた窓からはフルートやトランペットの音色に混じってホイッスルや掛け声が聞こえた。

 2人が教室へ着いた時、教室に人はいなかった。
「…あれ、もう掃除終わったのかな?」
「サボったんだろ、お前がいなかったから」
「まさか! 僕が教室を出る頃には机を後ろに移動させてたんだよ?」
「…じゃあ手を抜いたんじゃないか」
 空っぽの教室を見回すと、確かに掃除をした後はある。しかしよくよく見てみれば隅にゴミが残っていたり、黒板消しが汚れたままだ。これじゃあお世辞にも掃除をしたとは言いがたい。
「……小学生じゃないんだから、掃除くらい真面目にやろうよ。…って、ちょっと京平?」
 がっくり肩を落とし、帝人が呟いた。京平は何も言わずに教室へ入ると、机が作る列の間を通り抜ける。京平の腕を掴んだままの帝人は彼に着いて行くしかなかった。
「ほら、俺たちも帰るぞ」
 京平は立ち止まり、机の横にかかった鞄を帝人に差し出す。京平の鞄より幾分重いのは、持って帰るべき教科書やノートが入っているからだろう。
 京平を掴んでいた手を離し、帝人は鞄を受け取った。その顔は未だにぽかんとしている。
「…え?」
「掃除も終わってるみたいだし、帰っても平気だろ」
「いや、そうだけどさ。でも流石にこれじゃあダメだと思う」
 一度意識してしまえば更に汚れて見えるから不思議だ。そんなことを考えながら、帝人は教室を見渡した。
「だからって2人で教室の掃除なんてするもんじゃないぞ。いいから、帰ろう」
 京平は帝人の鞄を持っていない手を掴み、来た道を戻り始めた。
「え、えぇ…? 京平!」
「腹減ったし何か食いに行くか。奢ってやるからお前も付き合えよ」
 足がもつれそうになるのをなんとかやり過ごし、帝人は京平の一歩後ろをついて歩く。制止を求め名前を呼ぶが、京平はさも当然のように歩き続け、それどころか放課後の予定を帝人に押し付ける始末だ。
――まぁたまにはいいか。
「じゃあお寿司がいい。露西亜寿司!」
「バカ。無理に決まってるだろ」
「いいじゃん、ケチ」
「…奢ってやらないからな」
「ごめんごめん。じゃあマックで」
「おー、それじゃあ駅前だな」
 京平が引っ張っていた手はいつの間にか離れ、学校を出た時には再び繋がれていた。




(放課後デートってヤツですか?)



 翌日、掃除が不十分だったという理由で2人の班は罰として掃除をさせられたとか。



* * * * *
今回は常盤様のリクエストで「同い年学パロ」でした。
同い年学パロということで、強気な帝人と子供っぽい京平さんです。キャラ壊れ甚だしい作品になってしまって申し訳ないんですけど、同い年だったらこれくらいフランクでもいいかな、なんて。
というか、京平さんの学生時代が想像できないというピンチ(笑)え、彼は不良でいいんですよね?←
リクエストありがとうございました!


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