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 その日、帝人が図書室に訪れたのは偶然だった。
「頼む! 後はお前だけなんだ!」
 仲の良いクラスメイトに急用ができたらしい。図書委員の彼が言うには、今日は彼が図書室を開ける係で、司書さんが来るまで待機していなければならないのだそうだ。だから、委員の仕事を変わって欲しいと言う。他の図書委員に声を掛けたが皆用事があると断られてしまった。他に頼めるのは君だけなのだ、と。
 真面目な彼のことだ。急用も断られたことも、本当のことだろう。
「いいよ。その代わり、明日ジュース奢ってよ」
 そして帝人は、困っている友人の頼みを断らなかった。ほとんど人は来ないし、司書さんも30分ほどで来るというので、二つ返事で請け負った。
「もちろん! じゃあ、頼むな。先生には俺から言っとくから」

 それが昼休みのことだ。
 放課後、職員室で借りた鍵で約束通り図書室を解放した。友人が言っていたように、10分ほど待ったが誰かが来る気配はない。
「そう言えば、放課後に図書室に来たの初めてだ」
 授業で何度か足を運んだことはあるが、自主的に来た記憶はない。自習するなら自習室へ行くし、帝人は本よりも漫画が好きだった。
 どんな本が置いてあるのか気になってカウンターから抜け出した。
(誰もいないし少しくらいなら大丈夫だよね)
 小さな言い訳をしながら本棚を縫って歩く。
「へぇ、漫画もあるんだ」
 高校の図書室は、記憶にある中学のそれより少し広い。並んでいる本も簡単なものから難しそうなものまで様々で、かと思えば漫画や雑誌までもが並んでいる。帝人は本棚を横目にさくさく足を進めた。
 図書室の奥まで辿り着く。そこにはひっそりと4人掛けの机と椅子が置かれていた。
「え…」
 帝人は目を丸くし動きを止めた。誰もいないと思っていた図書室に人がいたのだから当然だ。
「鍵開けたの僕、だよね…?」
 静かに問えども返事はない。帝人の目の前に現れた人物は、机に突っ伏している。どうやら眠っているらしい。
 そろそろと近づけば肩が上下に動いているのが分かる。昼休みにも図書室は解放されているはずだから、その頃から寝ているのだろう。時間にして2時間といったところか。
 よく寝ているようだし、起こすのも悪いからそのままにしようと思ったが、寝返りをした(と言っても顔の向きを変える程度だ)彼に見覚えがありその考えを打ち消した。
 新たな利用者が図書室に来ていないことを確認して、寝ている彼の向かい側に腰を掛ける。帝人の顔が僅かに緩んだ。
「…ラッキー、かな」
 目の前で眠る彼――門田京平は帝人の先輩で、もっと言えば恋人だ。今日、一度顔を会わせなかったところに本人を見つけたのだ。嬉しくないわけがない。へらっと笑いながら京平を見る帝人の目はいつになく優しかった。
(ふふ、髪がボサボサだ)
 静かに京平を観察する。
 いつも後ろに撫で付けられている黒髪が乱れているのは寝返りをするから。外気に晒されている頬は先程まで下敷きにしていたせいで少し赤くなっていた。
 寝ている彼は普段と比べ年相応の幼さを感じさせる。あの大人びた深い黒に見つめられないのは残念だが、いつもと違う京平が見られるとあればそれくらい我慢できた。
「……好き、だなぁ」
 飽きもせず京平を見続けていた帝人がぽつりと呟く。無意識だった自分の呟きが恥ずかしくて仕方ない。聞かれていなくて良かったと息を吐いたところで、少し掠れた低音が耳に入った。
「何が好きなんだ?」
 ビクッと肩を跳ねさせた帝人の前でのそりと起き上がった京平が欠伸をする。
「で、何が好きなんだよ? 帝人」
 机に肘をつきにやりと意地悪く笑った彼が、名前を呼ぶ。自分の名前を。望んだ黒が自分を見つめるのに、顔を真っ赤にさせた帝人は嬉しさより羞恥が勝り声を出せないでいた。
「…、いつ起きたんですか?」
「あー、お前が席に着いた時だな」
 ぱくぱくと金魚のように口を開閉させるだけだった帝人が発した言葉は、か細く震えている。多少赤みは引いたがそれでも顔は赤いままだ。視線はゆらゆらと泳いでいる。
 それをおかしそうに見ながらも素直に答えたのは機嫌が良いからだった。京平は再度、帝人に問う。答えるまで離さないとその目で語りながら。
「何が好きなんだよ?」
「…うぅ、……が」
「聞こえなかったからもう一回」
「…っだから、先輩が!」
 帝人の言葉が静かな図書室に響き渡った。顔を真っ赤にして目を閉じる。細い肩がふるふると震えた。小さな声で「好きなんです」と付け加えた言葉は、確かに彼に届いただろうか。そればかりが心配で、しかしこの羞恥を忘れることもできず、帝人はどうすることもできない。
「俺も」
 聞こえた言葉に、勢いよく目を開く。目の前にはいつものように優しい目をした京平がいた。
「俺も、帝人が好きだ」
 その言葉に帝人が更に顔を赤くさせたのは言うまでもない。




(それが嫌じゃないのが悔しいの)



「ところで門田先輩はいつからここに?」
「6限からだ」
「え、でも鍵がかかってたんじゃ…?」
「あー、秘密だぞ」
「?」
「ちょっとコツがいるんだが、あの扉な鍵がなくても開けられんだよ」
「えぇ!?」
「誰にも言うなよ」
「う、はい」



* * * * *
3位の門帝で学パロでした!
門田さんがエスっぽいというかなんというか(笑)好きな子ほどいじめたい年頃なんですよ、多分。そして正しく不良やってるみたいですw楽しかったです。
2万打ありがとうございました!


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