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「人は嘘をつく時、右斜め上に視線が動くそうですよ」
 はて、それがどうしたというのか。
 京平は帝人を前に動きを止めた。その話は京平も聞き覚えがある。心理学だったか何だったか、詳しいことは忘れたがそんなことを言っていた気がする。けれど、それが今何の意味があるのだろうか。
 確かに今日はエイプリルフールという祝日ではない妙な記念日だ。元々はフランスの「嘘の新年」にまつわる話だったと思うが、今はどうでもいい。
 狩沢や遊馬崎たちは、ネットで行われている各社のネタサイトをチェックしなければならないとかで今日は家にこもると言っていた。
 現実の社会よりもネットの方がエイプリルフールというのは賑わいをみせるのだから不思議だ。
 あぁ、何の話だったか。そうだ。嘘をつく時の話だった。これだけ悩んでも答えに掠りもしないのだ。素直に聞いた方が早いかもしれない。
 京平はニット帽で見えない片眉をひょいと上げ、帝人に声をかける。
「それがどうかしたのか?」
「特に深い意味はないんですけどね」
 帝人は苦笑すると、顔を下げぽつりとこぼすように口を開いた。
「嘘をつく時に癖を作っておけば、本当に隠したいことはバレずに済むのかなって」
「わざわざ嘘をつく時の癖を自分でつけるってのか?」
 京平は思わず非難めいた口調で言葉を返した。そもそも癖はつけるものじゃなく、自然とついてしまうものだ。直したくても直せないものだってある。そんな面倒なものをわざわざ自分で用意するなんて。
 それに、そんなことをしてまで隠したいことが、目の前にいる穏やかな少年にあるとも思えない。京平には理解しがたかった。
 けれど帝人は気分を害した様子もなく、朗らかに笑っている。
「僕の場合は、嘘をつくことが癖なのかもしれません」
 彼の目だけが悲しそうだった。少なくとも京平にはそう見えた。
 何も答えない京平に何を感じたのか、帝人は慌てて言葉を続けた。
「あ、別にエイプリルフールだからって嘘をついてる訳じゃないですよ?」
 帝人が京平を伺うように見上げたので、分かっているという意味を込めて京平は頷き返す。
 あからさまにほっとした表情を見せた帝人は、苦笑しながら話を続けた。
「それに嘘をついてもいいって言われると、逆につきにくいと思いませんか?」
「それはそうかもな」
 わざわざ嘘を用意してまでつけと言われても困ってしまう。するならするで派手にやりたい気もするが。
 京平は今までのエイプリルフールを振り返ってみた。学生時代、エイプリルフール当日は春休みで会う人間が決まっていた。そのせいか毎年くだらないネタを考えてメールをしてくる輩が何人かいたが、それでもわざわざ嘘をついてくる人間は少なかったように思う。社会に出てからは、それこそ学生の遊びのように扱われてきたせいで、この行事とはかなり疎遠だ。
 それを思えば、帝人の言うことも理解できる。
「まぁ笑える嘘ならいいんだがな」
「そうですか? どんな嘘でも愛がなきゃ駄目ですよ」
「愛?」
 どうしてここで愛が必要なのか。京平は首を傾げる。
「そこに愛があるなら、どんな嘘でも最後には許せると思うんです」
 帝人は、そんなことを平然と、しかも本気で言ったようだ。彼の表情は固い。京平はますます混乱する。
 京平が当惑していることを察したのか帝人はにっこりと笑った。
「じゃあ門田さんに問題です。僕の話、何が嘘でしょうか」
 帝人には珍しく挑戦的な光を宿した目で、京平を見つめる。
「全部嘘かもしれないですし、嘘なんてついてないかもしれません。門田さんには分かりますか?」
 そう問うた少年は、誰よりも愛に飢えているのかもしれない。
 京平は帝人を抱き締めた。



嘘は君を救うのか

(嘘をつかなくても愛はあるのに)




何でちょっと暗くなったし。理解できないのは私の頭がパーンってなったせいです。いいんだ、僕が理解できてればそれで←


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