幾度繋がっても、君のすべてを知ることはできない。
どんなに触れ合っていても、君と1つになることはできない。
分かっているんだ。それが叶わないことくらい。
だからせめて、君を感じているこの瞬間、時が止まればいいと。そう願わずにはいられない。
叶わぬ夢に嘆き、届かぬ願いに焦がれる俺は。柄にもなく、ただ考えることしかできなかった。
「どうしたんですか、静雄さん」
「……どうすりゃ時間を止められるかと思って」
隣から聞こえてきた声があまりにも優しくて、静雄は中空を見つめながらぽつりと溢した。
仕事先の上司から休憩をもらった静雄は、いつものように公園のベンチに腰掛けていた。缶コーヒーと煙草を手にぼんやりと空を流れる雲を眺めることは、静雄の日課のようなもので。誰にも邪魔されずただ静かに過ごすこの時間は、何かと騒がしい自らの周辺を思えば、ひどく貴重だ。
そこに帝人が加わったのは、いつの頃からだったか。休日の昼間に偶然会い、何だかんだと話をするようになり、そして。いつの間にか休日の昼過ぎには、こうしてベンチに並んで座ることが習慣になっていた。
例えば、帝人が臨也のような、静雄の嫌う屁理屈をこねる人間であれば。若しくは、他人の事情を考えず、その機微に鈍感で、はたまた妙な価値観を持つ人間だったなら。きっと、静雄の隣になど座っていられないはずだ。
静雄の怒りに触れない人間は限られている。寡黙な――実際は、話すことができない――セルティや、静雄がキレるラインを理解し接することができるトムや門田、あとは家族くらいだ。
基本的に、年上が多い。幽は年下だが子供の頃はよく喧嘩をしたし、門田は精神的に随分大人だ。例外はいくつかあるが、やはり圧倒的に年上が多かった。
その中で、帝人は特別なのだ。何がと言われても、静雄には難しすぎて分からない。ただ、特別だということだけを漠然と理解していた。
「それはまた、随分と難しいことを考えてますね」
「あぁ、さっぱり分かんねぇ」
思考の海に飲み込まれた静雄を現実に引き戻したのは、純粋に気持ちを伝える帝人の声だった。
「そうですね。時間を止める方法は分かりませんけど、その時間が少しでも長く続くように努力することはできますよ」
その方がよっぽど建設的です。
そう締めくくった帝人が一体どんな顔をしているのか気になって、ちらと横を見た静雄の視界には、ふわりと柔らかく微笑む帝人がいた。
それが何故だか妙に眩しく感じて、サングラスの裏で目を細める。
何も言わずにいる静雄を見上げ、帝人は照れ臭そうに眉を寄せた。
「……だから、もっとたくさんお話しましょう」
ダメですか?と控えめに尋ねる姿が小動物のようだと言ったら、帝人は怒るだろうか。言いたい衝動に駆られるが、今は止めておくことにした。
知らず弛んだ口元に気付き、ひどく幸せなのは彼のおかげだから少しでも帝人に返したいと、静雄は思った。
「なぁ帝人」
「はい」
不安げに揺れる瞳はどこまでも澄んでいて、けれども真っ直ぐに静雄を見つめている。内心笑みを濃くしながら、静雄はそっと帝人の頭を撫でる。
「腹減らねぇか?」
「へ?」
言葉を理解できなかった帝人がぱちぱちと瞬きした。その様子に再び小動物が思い起こされ、静雄はくすりと笑って足りない言葉を付け足す。
「場所変えて、どっかでゆっくり話そうぜ」
途端にぱぁと顔を輝かせた帝人がにっこりと笑った。
「はい!」
さらさらと流れ行く時間を留めることはできないから、だから少しでも君と一緒にいられるように。
そんな、願いとも決意とも言えない小さな思いは胸を埋め、まるでそれが発熱したように胸が温かくなったのを感じた。
大切なのは
(今とこれから、質と量)
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リハビリ兼ねて久しぶりの静帝でした。
ちょっと短いかなぁ、と思いますが、元々拍手文予定のネタだったので仕方ないですかね。
2萬打ありがとうございました!