drrr!! | ナノ

 今日はいやに風が強い。春一番だろうか。生ぬるい強風は雨を従えその激しさによって冬を吹き飛ばそうとしている。
 寒い寒いと文句ばかり募らせていたが、感じることのなくなったひんやりとした空気が恋しくてたまらなくなった。
 嵐の前の静けさなんて言葉があるが、これ程の激しさならば冬は春一番の為に設けられた静けさなのではないかと疑わしくさえ思うのだから不思議だ。
 その激しさたるや、どうだろうか。家中にある窓をガタガタと震わせ外からは空缶が転がっているのか甲高い音が響いてくる。今なら顔に新聞紙が張り付いたって不思議ではないだろう。
 実際に張り付いたならもう二度と外には出ないと誓うが、そう思うくらいには激しいということだ。

 春が来る。
 それは非常に待ち遠しいが、何もこんな日に春一番が来る必要はないじゃないか。
 帝人は雨風が激しく吹き付ける窓を睨み、見えない外の世界を思う。
 今日は帝人の誕生日だ。けれど前述の通り馬鹿みたいに天気が悪い。大した理由もなく外へ出ようと思えない。
 人と会う約束があったが、この天気では外出は危ない。急遽取り止めた。

 そういえば今年は既に春一番が来ているから、これは春二番か春三番かもしれない。そもそもただの悪天候の方が確率が高いような気がする。そうだった、春一番の後に雨が降るんだ。これじゃあただの嵐じゃないか!
 つまるところ帝人は大変暇なのだ。

 誕生日が嬉しくて皆に祝ってもらいたいと思うような年ではないが、こうも天気が悪いと気が伏せてくる。
 帝人はため息を吐いてパソコンへ向き直る。
 画面にはいつも帝人が利用しているチャット画面が表示されているが、昼間から顔を出している人はいなかった。
 ますます落ち込むのを感じながら、画面を切り替える。
 サイトの管理者でありネットで生活費を稼いでいる帝人には、やらなければならない作業が山ほどあるのだ。時間があるなら済ませてしまおうとカチカチとマウスをクリックする。


 携帯が鳴り、メールの着信を知らせる。また誰かからのおめでとうメールだろうか。会えないならせめてもと朝からその手のメールが届く。
 今度は誰だろう。携帯を手に取りメールを開いた。
『あと5分で着くから』
 たった一行のメールは京平からだ。彼らしいと言えばらしいが、帝人は驚きのあまりフリーズした。
 京平はこの悪天候の中をわざわざ来るという。どうして。そんな言葉が帝人の頭の中を埋めていった。
 混乱した帝人はメールの返事も忘れ、ぱたんと携帯を畳む。携帯を片手に持ったまま窓を見るが、相も変わらず激しい風雨が窓を叩いている。
 帝人は不安げに眉尻を垂れ下げて、京平が来るのを待った。

 暫くしてベルが来客を伝えた。帝人は足早に玄関へ向かい、相手の確認をすることもなく扉を開ける。
「よぉ」
「門田さん、早く上がって下さい!」
 ずぶ濡れになりながらいつも通りに挨拶をする京平に帝人は悲鳴に似た声をあげる。
 京平が中に入ったことを確認するとタオルを取ってきて手渡す。
 途中まで車で来たのだろうか。ニット帽を脱いだら思っていたほど濡れた様子のない京平に、帝人は安堵し息を吐いた。
「どうしたんですか、こんな日に」
「ちょっと用事があってな」
「何もこんな天気の日でなくてもいいんじゃ」
「今日じゃないと意味ないだろ」
 京平はそう言って少し大きな箱を出し帝人に手渡した。
「誕生日おめでとう」
「え、もしかしてこのためにわざわざ……?」
「まぁ俺が会いたかったから」
「あ、ありがとうございます!」
 退屈していただけに、京平の来訪は嬉しい。それに素直に会いたかったと言われれば二の句が言えなくなった。
 玄関先で体を拭き終わった京平を連れて部屋に入る。帝人がお茶を用意し、2人はプレゼントを前に座った。
「開けていいですか?」
「あぁ、大したもんじゃないが」
 帝人が丁寧に包装された紙を外していくが、雨に濡れたせいでなかなか綺麗に外せない。それでもなんとか取り出した箱を開けて見れば、そこにはお茶碗・お箸・湯飲みが2つずつ入っていた。
 和食器だ。大小1つずつ揃えられた色違いの食器。これはいわゆる……
「……夫婦茶碗?」
「あぁ。この赤い線の入った小さい方が帝人ので、青い線の大きい方が俺のだ」
 京平はニッと笑い指を指して説明する。
「これで一緒に飯を食おう」
「あ、…う、はい」
 こうもいつも通りに断言されてしまうと、何も言えなくなる帝人だ。
 つまりアレか、自炊をしっかりしろとか、もっと料理上手くなれってことなのかな。
 帝人がそんなことを考えながら茶碗を見ていると、京平が帝人の頭をくしゃくしゃと撫で回した。
「あ、お前今度俺ん家来る時に、今使ってる茶碗と箸持って来いよ」
「? はい、わかりました」
 首を傾げながらも了承した帝人を抱き寄せ、京平は額にキスを贈る。瞬間真っ赤に染まった帝人を見て、喉を鳴らすように笑った。


誕生日おめでとう

(ただ君に会いたくて)
(君の存在を感じたくて)


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -