人の賑わう池袋。
これだけの人が何処からやって来るのか。そして何処へ帰って行くのか。
人の波が途切れることなく、不規則に、けれど大きなうねりとなって押し寄せる。
そこに竜ヶ峰帝人はいた。親友の紀田正臣と共に。
時間を持て余した放課後。
正臣の口癖にも似た「ナンパをしよう!」という提案によって、2人の少年は(正確には正臣ただ1人だが)年齢などを気にした風もなく見掛けた女性に話しかけている。
よく飽きもせずに話しかけ続けるなぁ……。
今日は何敗しただろうか。帝人が知る限り、彼のナンパが成功したことはない。見ていないというだけで、実際はどうか分からないが。けれど、彼の目的が話しかけることにあるのは重々理解しているので、帝人は特に口を出すこともなかった。
しかし。
何度断られても幾度失敗しても諦めない正臣を見守っていた帝人だが、時間が経てばこちらが飽きてくるわけで。小さくため息を吐き気晴らしにと人波を眺め始めた。
そこに見えた金色。
「あ、静雄さんだ!」
「え、ちょっ、帝人……!」
退屈していたところに現れた金髪の青年。いつものバーテン服を着た平和島静雄は、池袋でも屈指の有名人だ。
近づいてはいけない人物として彼を親友に紹介したことのある正臣は、帝人が発した名前に驚きすぐさま視線を移した。
そこには確かに、彼がいた。背の高い彼は、目立つ金髪が群衆から頭1つ分飛び出ていて、なんとも見つけやすい。
しかし、正臣が最も驚いたのはその後親友がとった行動だった。
「静雄さーん!!」
静雄を見つけた帝人は、なんの躊躇いもなく、名前を呼んで駆け出していたのだ。
俺の注意は丸っきり無視なのか、帝人……。まぁ今更か。
正臣は一握りの悲しさを覚えたが、ナンパの途中だったことを思い出し再び笑顔を張り付ける。
……まぁ帝人なら大丈夫か。
そして、名前を呼ばれた静雄が足を止めた数秒後に帝人が駆け寄った。
「……あ?おう、竜ヶ峰か」
「こんにちは!お仕事ですか?」
「あぁ、ちょうど一区切りついたとこだ。お前は学校の帰りか?」
帝人に話しかけられた静雄は、さりげなく口に挟んでいた煙草を地面に落とし靴の裏で火を消す。すると手は再びズボンのポケットへ戻り、いつもと同じ立ち方になる。
「はい。こんなところで会えるなんて偶然ですね」
「ほんとにな」
にこにこと朗らかに笑いかける帝人につられ、静雄も口元だけで微笑み返した。サングラス越しに見える静雄の目は、要注意人物とは思えない程穏やかだ。
それは普段の彼を知る者からすると少し異様ではあるのだが、帝人はそれに気付かない。
何故なら、この静雄が帝人にとっての普通だからだ。
つまり、静雄は帝人に甘い。
それを知っているからこそ、正臣はナンパを続行した。むしろ邪魔をすれば自分の命が危ないとさえ考え。
「あ、よかったら一緒にお茶でもどうですか?」
「……は?」
「あ、いやっ!その、静雄さんが迷惑じゃないなら、でいいんですけどっ」
少しばかりの世間話のあと、帝人は「立ち話もなんだから」と静雄をお茶に誘った。
突然のことに言葉が出ない静雄に怒ったと思ったのか、帝人は少し慌てた様子で言葉を付け足す。
「あー……」
「……やっぱり、ダメですか?」
静雄は言葉を濁しながら正臣をちらりと見る。その反応に帝人はしゅんと項垂れた。
そんな帝人の誘いを静雄が断れるはずもなく。
「いや、ダメじゃねぇけどよ。お前、ダチがいんだろ?いいのか?」
「いいんです。だってもうずっとナンパに付き合ってたんですよ?退屈過ぎて、どうしようかと思ってたんですから!」
静雄の問いに首を大きく左右に振った帝人は、今までのことを思い出し自分がいかに退屈だったかを説明した。
常にはない力説ぶりに苦笑した静雄に気付いた人は、帝人を除いて何人いただろう。
「……そうか。まぁ、お前がいいならいい」
「それじゃあ……!」
「おう、行くか」
「はい!」
先程と一転しはつらつと返事をした帝人の頭を一撫でし人混みの中を歩き始めた。帝人は正臣に一瞥もくれず、その横をついていく。
「つかよぉ、何でお茶なんだ?」
「え、だって……」
ナンパですから!
「ちょっ、帝人!?俺はこのまま放置なのかー!?」
* * * * *
えと、初静帝でした。
大型犬になつく子犬イメージで←
天然で積極的な帝人がかわゆi(ry
はい。お粗末さまでした。