午後から降りだした雨が、すべてを濡らしている。濃い灰色が街中を覆って何もかもがモノクロだ。
「……天気予報では晴れるって言ってたのに」
帝人は1人愚痴る。小さなそれは雨音に消えた。
普段持ち歩いてる折り畳み傘もあいにく今日は不在で。爽やかな笑顔で晴れだと言っていたお姉さんに八つ当たりしたくなった。
「走って帰るしかないかな」
少しでも弱まらないかと帝人は校舎の入り口で待っていたがいっこうにその気配はない。
今日に限って、正臣と杏里は先に帰ってしまった。元々帝人は居残り組で先に帰るように促したのは彼自身なのだが。
「……正臣にでも、待っててもらえばよかった」
後悔先に立たず。溜息を吐いた帝人は覚悟を決めて鞄を抱える。
とりあえず近くのコンビニまで走ってビニール傘でも買おう。
深呼吸を1つし、雨の中を走り出した。生温かい雨が肌に張り付いて気持ち悪い。せめて鞄が濡れないようにと気をつけているが、この分だと危険かもしれない。それでも今更止まれないと、息を切らしながら帝人は走った。
水分を含んだローファーが重い。足で地面を蹴る度に水を吸い、飽和状態になった今では雑巾のように絞れるのではないかと思うほどだ。
もう少し。角を曲がればコンビニが見える。気を緩めたその時、ドンッと何かにぶつかって帝人は後ろへ弾かれた。
「……!?」
尻餅をつく前に伸びてきた腕に引かれて転ぶことはしなかったが、その代わりに水溜まりに足を突っ込んでしまった。
「…大丈夫か?」
跳ねた水滴が帝人の足と相手の足を濡らしたのが目に入り、帝人はバッと頭を下げた。
「すいません! 僕が走ってたばっかりに。…服も濡れて、」
自分だけならよかったのに……。
濡れたズボンは水を含んで重そうだ。そこで帝人は首を傾げる。このズボン、何処かで見たような気がする。帝人は相手の顔を見た。
「し、静雄さん…!」
そこにはビニール傘を持った静雄がいた。モノクロだった世界で突然、金が輝く。
「よぉ、…お前傘は?」
静雄はとっくに帝人だと気付いていたようで平然としている。帝人は慌てながらも自分のことを話した。
「…そうか、じゃあ帰るぞ」
一通り話を聞いた静雄は、掴んだままの帝人の手を引いて歩き出す。
「え、ちょっ……?」
帝人は混乱しながら足を動かした。ふとさっきから雨に濡れていないことに気付いて静雄の傘を見上げる。すると傘が帝人の方へ若干傾いているのが目に入った。同時に、帝人と反対側の静雄の肩が雨に濡れているのも。
「静雄さん、肩濡れてます! あの、僕そこのコンビニで傘買いますから…!」
帝人は静雄の腕を掴んで止めようとした。しかし静雄も譲らない。
「…この傘最後の1本だったしよ、それに……」
少し言いづらそうに静雄の声が澱む。つられたのか足が止まった。
「それに、…なんだ、俺が送りたいだけだから気にすんな」
静雄は目を泳がせた後、はっきり言い切った。
「……それじゃあ、よろしくお願いします」
嬉しさと恥ずかしさから俯いた帝人がぽつりと溢すと頭上から小さく笑う声がした。誰のせいだと思っているのか。
再び歩き出した静雄にそっとついて歩く帝人。いつの間にか手は離れてしまったが、お互いの温度を感じる程に近くにいてなんだか気恥ずかしい。
あまり近いと静雄の服が濡れてしまうからと帝人が距離をとっても、それ以上濡れてどうすんだと引き戻される。
逆だ。自分は多少雨に降られたところで今更だ。しかし静雄は違う。自分のせいで濡れなくてもいい雨に濡れているなら、それは心配になるだけだというのに。隣の彼はそんなこと、考えもつかないだろうが。
でも、そんな優しさが嫌いんじゃないんだよなぁ。
ただ静かに雨の音を聞きながら、水溜まりを踏みつけた。
ぴしゃぴしゃと2人の足音だけが聞こえる。
雨も嫌いじゃない
(君と相合傘ができるなら)
* * * * *
ただ相合傘をさせたかっただけっていう、ね!←
このあと帝人ん家に行って、シャワーを譲り合ってたら帝人がくしゃみしたから先に入ることになったんだけど、納得しない帝人がじゃあ2人で入りましょうなんて爆弾発言をして、シズちゃんが凍りつけばいい←