「好きだ」
「僕も好きですよ?」
小さなアパートの一室で、テーブルを挟んで向かい合う青年と少年。
室内にも関わらず帽子を目深に被ったままの青年──門田京平は、きょとんと首を傾げる竜ヶ峰帝人という少年を見て、ため息を溢す。そして胸裏で呟いた。
やっぱりか……。
今から約1時間前。帝人に一通のメールが送られてきた。
『話がある。今から出てこれるか?』という至極簡素なメールの送り主は京平だ。
それに帝人が『すいません、今ちょっと手が離せなくて。もし急用なら今から僕の家に来ていただけますか?』と返信し、京平が帝人の家へ来たのが約30分前。
そしてやって来た京平に、折角だから夕飯でもと、帝人におされる形で共に食事を終えたのが数分前だ。
「そう言えば、話って何ですか?」
食器を流しへ運び戻ってきた帝人は、同じ場所に座りながら京平へ問う。
「あぁ、そうだったな」
如何にも今思い出したというように話を始めた京平。
帝人のことだから、遠回しに言ったところで分かってはくれないだろう。それに自分の性にもあわない。なら、此処は直球勝負しかない。
そんなことを京平が食事中から、いや、此処へ来る前から考えていたことを帝人は知らない。それほど平然と、いつも通りの態度で京平は帝人に接していたのだから。
軽い沈黙の中、京平の浅い深呼吸の音がして。そして、冒頭に戻るのだ。
「いや、そうじゃなくてだな」
力なく否定する京平に、帝人はますますきょとんとする。
一体何が違うのだろう。好きか嫌いかで問われれば間違いなく好きだと言う自信はある。断言できる。兄弟のいない帝人にとって、京平は頼れる兄のような存在だ。嫌いなはずがない。
けれど京平はそうじゃないと否定する。では一体どういうことなのか。帝人は首を傾げるばかりだ。
「俺の言ってる好きっていうのは」
「はい」
帝人が自分の言葉の意味に気付かないと理解した京平は、真剣な眼差しで帝人を見つめ話し出す。
「恋愛感情としての好きだ」
「え……?」
突然のことに帝人の頭はついて行けず、目をぱちくりとさせている。
そんな彼を認識しつつ、それでも京平は言葉を止めなかった。今言わなければならないことを伝えるために。
「今すぐどうこう言う訳じゃない。ただ、知ってて欲しかった」
京平の口からゆっくりと吐き出される声はいつもと変わらないのに、その内容だけが全く違う。
まるでスローモーションのように低くゆっくりと、それでいて鮮明に帝人の頭へ響く。
「俺がそういう対象としてお前を見てることを理解しろ。そして」
言葉を区切って、笑う京平。
「理解した上で俺を見ろ。惚れさせてみせるから」
何も言えずにいる帝人へ一方的に話し終えると、京平はすっくと立ち上がる。
「じゃあ俺は帰る。飯美味かった、ありがとな」
呆けたままの帝人の頭を撫で玄関へと歩き出した。直ぐに着いた玄関で靴を履くと振り返る。
「ちゃんと鍵閉めて寝ろよ。おやすみ」
まるで子供扱いしているような注意の後、ドアの閉まる音がした。
その音に帝人は我に返り、途端顔を赤くさせた。
これは君への宣戦布告
(降参するのは、俺か君か)
初門帝。いや、門→帝か。
基本かっこよく。でも言い逃げするというへたれさもちらりと垣間見せ(笑)うーむ、なかなか難しいぞ門帝。でも静帝とは違った雰囲気で楽しかった。開拓の余地有りってことで。