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WORNING!
この作品は某2525動画に投稿されている『和田の人』の動画を元ネタに作られています。
ですのでパラレルだと思って読んでいただけるとよいかと思います。
見たことない人の為に、少しだけ設定を。
帝人→普通の高校生。歌が上手い。
静雄→臨也の護衛兼お目付け役。
これだけ理解していただければ、後は話の中で説明します。
大丈夫という方のみお楽しみ下さいませ。







 人の流れに合わせて歩きながら視線を彷徨わせる1人の青年。
 休日と比べると幾分落ち着いてはいるが、それでも賑わいを見せている池袋。夜になる前のほんの少しの黄昏時、街には学校帰りの学生や少し早めに仕事を切り上げた大人たちが溢れ始める。その様子は、平和そのものだ。
 しかしその青年だけはイライラとした様子で辺りを見渡している。
「何処行きやがったあの野郎……」
 青年は低く唸るように呟いた。
 その声を聞いた周りの人間が青年から少し距離をとる。
 青年もそれに気付いてはいるが、だからといって何をするわけでもなく、空いたスペースを埋めるように足を進めた。

 平和島静雄。池袋であまりにも有名な彼は、その長身をバーテン服で包み、金色の髪から覗く目を色の付いたサングラスで覆い隠している。街中を歩くにはあまりに不似合いなその格好は静雄の常の仕事着だが、彼はバーテンダーではない。此処、池袋を統括している一家の息子、折原臨也の護衛兼お目付け役である。池袋最強とも言われる彼の強さを見込んでの仕事ではあるが、肝心の臨也がいない。
 静雄は静かに煙草を取り出し深く吸い込む。イラつきを押さえつけるために。
 何故人が彼を避けるのか。それは単純に、彼が危険人物だからだ。沸点の低い静雄は、キレると冷蔵庫を投げ飛ばす。投げ飛ばすのだ、冷蔵庫を。
 どうして冷蔵庫なのか、人間にそんなことが出来るのか。色々な疑問は残るが、実際冷蔵庫は日常的に飛んでいるし、被害者も多くいる。それが何よりの証拠だ。
 触らぬ神に祟り無しとはよく言ったもので、池袋で生活している人間は静雄に関わらないようにしているのだ。機嫌の悪い時は特に。
 そして今まさに静雄は不機嫌だ。多少人が多くてもどうにか避けたくなるほどに。
 彼の不機嫌の原因は、言うまでもなく臨也だ。雇われている身ではあるが、好きでやっている仕事ではないし、臨也は気に入らないしで、最近の静雄は大抵機嫌が悪い。
 しかし仕事だ。仕事だから仕方ないと割り切っているが、それでも毎日毎日臨也の馬鹿げた行動に付き合うのは腹が立つ。後始末をするのは静雄の仕事なので、仕事を増やされることも気に入らない。
 だから静雄は、臨也が何かしでかす前に息の根を止めることを最優先に考えているし、護衛として彼のピンチを救う時だって自分の獲物を取られまいと立ち向かっているくらいだ。
 そう、アイツは俺の獲物だ。イライラする時はアイツを殴るに限る。なのによぉ、マジでアイツ何処行きやがった。
 そうして静雄は、池袋の一般市民に小さな恐怖を味あわせながら臨也を探しているのである。
 しかし逃げ足の早い臨也が何処にいるのか皆目検討が付かず、思い当たる場所を虱潰しに探し回っている状況に、新たなイライラが静雄の中に積もっていた。

 そんなイライラを静雄が抱えたまま公園の横を通りかかった時、微かに歌声が聞こえた。距離があるのかはっきりと聞き取れないが、それは確かに聞き覚えのある声だ。
 静雄は人の波を抜け、公園へ入る。そこで見つけたある少年。
 少年は静雄に気付いた様子もなく、ベンチに座りながら歌っている。
 静雄はポケットに手を入れたまま少年に近づきぶっきらぼうに声を掛けた。
「……よぉ」
「あ、……えとシズちゃんさん」
 歌うことを止めた少年が静雄を見上げ、驚いたように声をあげる。しかし少年の挙げた名前はあまりにも奇妙だ。
 2人の間に沈黙が降り、ただただ見つめあう。
「……」
「……」
 先に折れたのは静雄だ。
「……何だそりぁ」
「いや名前分からないけど、あの人がそう呼んでたなぁと思って」
 すいません、と言葉を続けた少年は先程までと様子を一変し、あたふたとし始め申し訳なさそうに項垂れる。
「あー、いやいい。全部アイツが悪ぃ」
 言われてみれば静雄は彼ときちんと話したことがない。つまり名前を教えたことがないのだ。
 ならば臨也の使う呼び方しか知らないのも無理はないし、あのあだ名にさんを付けて呼んだ少年は年上を敬う気持ちを持った人間だということだろう。臨也とは逆に。
 ならば悪いのは臨也だ。
 静雄はそう結論づけた。
「平和島静雄だ」
「え……?」
「俺の名前」
「平和島さん……」
 確認するように呟いた少年に静雄は頷き返す。
 すると少年はにこっと笑い──
「僕は竜ヶ峰帝人です」
 嘘か本当か分からないような名前を名乗った。
 しかし静雄はそんなことを気にするような性格ではない。
「竜ヶ峰か」
「はい」
「聞きたいんだが、臨也くんを見掛けなかったか?」
「臨也さんですか? 今日は見てないですけど」
 帝人の答えに静雄は舌打ちする。その様子に帝人は不安そうに顔をしかめる。
「臨也さん、また何かしたんですか?」
「いや、何かしでかす前に息の根を止めようと思ってな」
「……あ、あはは」
 帝人は頬をひきつらせて笑う。
 この帝人という少年は、池袋に来たばかりの高校生だ。何の因果か、問題の臨也に気に入られ彼の奇行に巻き込まれる可哀想な被害者なのだが、帝人自身はそれはそれでいいか、と思っている不思議な少年である。最近では池袋を守るために悪巧みを阻止しようとしているようだ。
 つまり加害者側の人間と被害者、悪と正義というなんともミスマッチな組み合わせだが、本人たちに自覚はない。

「……さっきの」
「何ですか?」
 帝人は素直に首を傾げる。
「いや、お前歌ってただろ?」
「聞いてたんですか……」
 静雄が此処に来る原因となった歌声は帝人のものだった。
 それを指摘された帝人は恥ずかしそうに笑う。
「歌うの好きなんです」
「そうか」
「はい」
 静雄は小さく微笑む。
 帝人はそれを見て少し驚くも、すぐに笑顔になる。
「……意外ですね」
「何がだ?」
「平和島さんはもっと怖い人だと思ってたから、まさかこんなに穏やかな人だなんて」
 その言葉に、静雄が目を見開く。
「穏やか?」
「はい、もっと笑った方がいいですよ!」
 確かに此処に来てからイライラがなくなった気がする。どうしてだ?
 静雄は考えるが、元来頭を使うのは得意ではない。というか性にあわないのですぐにやめてしまった。
「んなこと言われたの初めてだな」
「そうなんですか? じゃあ僕だけが知ってるんですね」
 そう言ってふにゃっと笑う帝人の頭を、静雄は撫でる。
「……お前変な奴だな」
「別に普通ですよ」
「そうか」
「はい」
 2人が笑いあったその時、遠くで帝人を呼ぶ声がした。
「あ、和田くんだ」
「……あの金髪か」
 声のする方を見れば帝人の親友、和田の姿がある。
 帝人はベンチから立ち上がり和田へ手を振ると静雄に向き直る。
「すいません。友達が呼んでるんで、僕行きますね」
「おぅ、悪かったな」
「いえ。それじゃあまた」
 頭を左右に振った後、帝人は鞄を手に和田の元へと走り出した。
「竜ヶ峰!」
 帝人が静雄と和田の中間地点に差し掛かったところで静雄が咄嗟に帝人の名前を呼ぶ。すると帝人は立ち止まって振り返った。
「今度、お前の歌聞かせろよ!」
 静雄が声を張り上げる。
「はい!」
 頷きながら返事をした帝人は笑顔のままぺこっと頭を下げ、再び駆けていく。
 帝人の姿が見えなくなるまでその場で見送った静雄は、煙草を消し踵を返す。

 臨也を探すべく公園を出て人混みに紛れたところで、静雄はふと気付いた。
 アイツ一度も俺を見て怖がらなかった。
 簡単なようで難しいことだ。静雄の力を知っている者は、その瞳に幾ばくかの恐怖を見せることが多い。
 けれど帝人は普通に接していた。それは、静雄の感じた小さな幸せだった。
「やっぱ変な奴」
 小さく呟き微笑んだ静雄を、やはり近づかないようにと避ける人々。けれど静雄はそれに気分を害するでもなく、空いたスペースを埋めるように足を進めた。

「さぁーて、臨也くんは何処にいるんだぁ? 今の俺は機嫌が良いから、2割増しで殴ってやる」
 静雄はにやりと口元を歪め、夜になりつつある池袋の中へ姿を消した。



簡単なようで難しいこと

(それを普通にやってのける君の凄さ)





長い。とにかく長い。
敵対してるのにどんだけほのぼのなんだコイツら(笑)素晴らしいネタをくれた、和田の人に感謝です。
ちなみに和田くんは、勿論紀田くんのことです。誤植ではありませんので、悪しからず。


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