コンクリートの塊で頭をぶん殴られたような、すさまじい衝撃だった。そして、絶対に認めたくなかった。

「(俺が…あんなオッサンが、すき、なんて)」



本当は薄々わかっていた、のかも知れない。が、こうもはっきり自覚させられると絶望しか感じなかった。
そう、あの夢は、ネロの願望を映したものに過ぎない。
だが別に女になりたい訳じゃない。
──女でなければ相手にされない。される訳がない。
それだけの事であり、それだけの事がネロを死ぬ程苦しめた。

「(何だよ…あぁ俺、マジでカッコ悪ぃ)」

ベッドの上で頭をぶるぶる振ると、右腕が淡く光り、疼いた。
ネロはベッドから飛び降り、コートを羽織る。
久々に『大物』の予感だ。ネロはブルーローズを懐に仕舞い、レッドクイーンを担ぐと家を出た。

とにかくむしゃくしゃしている。手っ取り早く見つけ出してぶっ飛ばしてやる、とネロは町外れの森を早足で歩いた。
暗い森の道を、冷たい月明かりがぼんやりと照らしている。ネロのブーツが土を踏み、時折小枝を折る音以外はほとんど聞こえない。

『ひひひひひひひひひひっ、』

「!?」

突如聞こえた不気味な笑い声に、ネロは振り返った。
薄く、光が辛うじて届く小路の真ん中に、老婆が佇んでいた。

「おんやぁ、随分と若いねぇ…ひひっ」

ぼさぼさの薄い白髪頭に、しわくちゃの顔。その中で、ギョロリとした目玉が気味悪くネロを捉える。
ネロの右腕が強く発光した。

「…悪魔か」

「まあまあ、そう睨まないどくれ。この婆の話、聴いてはくれんかねぇ?ひひひひ」

「あぁ?」

最高にイライラしていると言うのに何て奴だ。

「坊主、今…強い願いを持っているようだねぇ?」

「は、」

何で、
あんな夢を見た後では嫌でも動揺してしまう。老婆の悪魔は、骨と皮だけのような指でネロを差した。

「想い人がいるのかぇ?若いってのは良いねぇ、ひひっ」

「な、何を…」

「だが、今のままじゃあ実らない。そうなんだろう?」

「黙れっ!!」

ネロは激昂し、右腕を伸ばし老婆を掴んだ──

「ひひひひひひっ、まあ熱くなさんな、坊主…」

「!?」

筈だが、老婆は手のひらの中にいない。背後から声がして、ネロは愕然として振り返った。

「てめえっ、」

「その願い…婆が叶えてやろうじゃあないか。ひひひひひひひひひひひひっ!」

「ぐっ、!?」

老婆が信じられないスピードで、ネロに突っ込む。
思わず身構えるが、老婆はネロの身体をすり抜け消えた。

『それじゃあ、確かに。ひひひひひひひひっ!』

不快な笑い声に顔をしかめ、ネロは近くの木を殴った。

「ちくしょっ、…んだよあいつ!」

冷えた風が頬を撫で、ネロはやるせない気持ちになって重い足取りで家へと帰った。

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