「──坊や、?」
「!!」
びくり、肩を跳ねさせ振り向くと、そこには目を見開いたダンテがいた。
「な、え、だ、ダンテ…」
恥ずかしくていたたまれなくて、こんな時だと言うのに顔が熱くて熱くて仕方ない。
「……」
あれを、聞いてない筈がない。
傷が癒えてきたのが今は恨めしい、いっそ気を失えたらどんなに良い事か。
「…坊や」
「あ、ああ…」
ダンテの顔は至って真面目で、何だか自分が恥ずかしくなって俯く。
しかし、次の瞬間、頭に感じた暖かさに顔を上げた。
「──さっさと片付けるぜ?」
ダンテが、ふ、と微笑んでネロの頭を撫でていたのだ。
「…当然!」
ダンテが自分をどう思っているのか、今はそんな事は何でもいい。ダンテが隣にいる、ただそれだけで、不思議と力が湧いて来る気がした。
「Let's rock,Kid!」
「…I'm not a kid!」
わざと不満そうな顔をすると、ダンテは笑ってリベリオンを構えた。
「喰らいな、バアさん!」
リベリオンを引き付けるように構え、勢いよく振り上げると、空気をつんざき衝撃波が走った。
「ひひっ、」
悪魔はひらりとそれを避ける、しかしダンテの口角は上がったまま。
「…?」
「こっちだ、クソ野郎!!」
背後だ。
ネロの背後の魔人が吼え、悪魔の右腕が一層強く、青白く光った。
「Catch This!!」
悪魔が狼狽するも遅く、頭を鷲掴みにされた状態から地面に叩きつけられる。
「ぐぅっ!?」
「おっと、」
起き上がろうとする悪魔の後頭部を、ダンテのブーツが容赦なく踏みつける。
「くっ…な、何て事だい…」
悪魔に向けられた銃口は4つ。
ダンテが愉しそうに言った。
「決め台詞は知ってるかい?ネロ」
ネロはニヤリと悪戯っぽく笑った。
「当然」
銃把を握る二人の人差し指に、同時に力が籠った。
「「Jack Pot!!」」
悪魔が黒い霧に還ったのを見届けると、ふたりは踵を返した。
「……」
「……」
会話は、ない。
ダンテが何を考えているから分からないが、先ほどの事を思い出すとネロはとても何かを話しかける気にはなれない。
足音が、やけに響いて聞こえる。
結局、ふたり共一言も発しないまま事務所に着いてしまった。
中に入って扉を閉め、ついに耐えられなくなってネロは口を開いた。
「…ダンテ、俺──」
しかし、ネロの言葉は途切れる事になる。
ダンテにいきなり腕を引かれ、抱き締められたからだ。
「な、」
自分を捕まえる逞しい腕が、身体全体に伝わる体温が、耳元をくすぐる吐息が信じられなくて。
「ネロ」
また、だ。
ダンテに名前を呼ばれると、心臓を掴まれたように胸がきゅうと苦しくなって、どうしようもなく顔が熱くて、
「聞いて、くれるか」
どうしようもなく幸せになってしまう自分の、なんと単純な事か。
「──好き、だ」
ああ、夢でも見ているんではないだろうか。
くらりと目眩すら感じるネロを、更に強くダンテは抱き締める。
「…お、俺、が」
震える声を絞り出すネロ。
ダンテは言葉の続きを待っているようだ。
「俺が、…男、でも、そう思う、のか?」
訊くのが一番怖くて、一番訊きたい事。
ネロの身体はひとりでに強張った。
「当たり前だろ?」
ネロは目を見開いた。
「今から男に戻ったって、離してなんかやらないから覚悟しとけよ」
視界がぼやけて不明瞭になる。
何より聞きたかった言葉を、どうしてこの男は分かってくれるのか。
「ダンテ、俺、…」
頬を、生暖かいものが伝った。
「ダンテ、が…すき…!」
顔を上げると、ダンテがいとおしげに目を細めてネロの目尻を拭った。
「愛してる、ネロ」
ついに止まらなくなった涙に俯くと、ダンテが柔らかく笑って顔をそっと上向かせる。
「全く、…本当に泣き虫だな」
「だ、って…」
「いいぜ、いくらでも泣いて。ただし」
「?」
「俺以外の男の前で泣くのは禁止だ」
そんな可愛い泣き顔見せられたら落ちない奴いないだろ、とのたまうダンテにネロの顔がまた赤く染まった。
「ば、馬鹿」
「その馬鹿に惚れちまったのはどこのお子様だか」
「子供じゃねぇよ!」
むっとするネロの頬を両の手で優しく包み、目を合わせる。
「そうだな、子供にこんな事出来ないしな」
ダンテに促され、どぎまぎしながらもゆっくり目を閉じた。
「I love you,my dear.」
ふたりの影が重なる。
唇から伝わる温度で、身体の芯から溶けそうだった。
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