眠るネロを見つめながら、ダンテは考えた。

何故、こんなにもネロに世話を焼いているのだろうか。

女になったから?悪魔が絡んでいるから?閻魔刀を預けたから?以前にも自分自身に問うた質問に、未だ答えを出せていない。
放っておけばよかったのに、と言ってしまえばそれまでだが、それが出来なかったのだ。

そう、そう言えば、女になったネロから電話が掛かって来た時。それがネロだと分かった時、思い出したのは、目だ。初めて会った時の強い光の目、全てに反抗するような目、そう、あの目が。

「(──ああ、そっか)」

第一印象はお互い最悪で、本気で殺し合って、そんなガキを家に置いておくなんて酔狂だと自嘲していたけれど。
それは何ら不思議な事ではなく、よく考えれば分かる事なのだ。

最初から、放って置ける訳がなかったのだから。
強い光の中に、寂しさと弱さの垣間見えるあの目を、最初に一目見たあの時から。

「(全く、参ったなこりゃ…)」

ネロに、恋をしていたのだ。

しかしネロは随分年下で、一緒にいるべき人がいて、何より男で。
同性愛なんて珍しくもないが、およそネロには縁のないものだ。勿論自分にも。
それが急に女になってしまった。
正直ダンテの心境は複雑だ。ネロが女なら何も憂いはない、だがこのまま好きになってしまえば、男に戻りたい、と言うネロの希望はどこへ行ってしまうのか。

色んな気持ちが、ダンテの気持ちにフタをしていた。

「(…逃げてたのは、俺だな)」

ネロの髪を撫で、目を伏せる。

何も、迷う事など無い。
ネロが男でも女でも、この気持ちが変わる事など無かったのだから。

「(でも今はまだ、)」

ネロが受け入れてくれるかどうか、と言えばまた話は別だ。
急ぐ必要は、あるけどない。

いつからこんなに臆病になったんだか、とダンテは苦笑しながら、ネロの額に唇を寄せた。

「なあ、これくらいは許してくれよ」

囁くように呟いた言い訳に近い言葉は、眠るネロには届かない。
子をあやすのとは訳が違う額へのそのキスは、ダンテだけの秘密となった。

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