偽神事件から、一ヶ月が経った。
早いものだ。ネロは本当にそう思う。ボロボロになったフォルトゥナの街も、確実に再生してきている。

そう、あれからもう一ヶ月だ。ネロはこの一ヶ月、ずっと地獄門の余波である悪魔を駆逐しながら生活して来た。──正直に言えば退屈である。
あの時、ベリアルやエキドナと言った上級悪魔と対峙した時の、どうしようもない高揚感が忘れられない。右手の疼く感覚が懐かしい。そして何より、

『またな、坊や』

ダンテ。
自分を坊やとおちょくり、馬鹿にし、助けてくれた、最強のデビルハンター。
彼と戦った時の興奮と言ったら、今でも思い出すと手が震えるくらいだ。本当に、強かった。

それだけだろうか。

ネロは最近、そんな事を考えるようになった。ダンテは、強い、命の恩人。ちょっとむかつく。本当にそれだけか?
ネロは今日もベッドの上で首を横に振る。馬鹿か、それだけに決まってンだろ!──それ以上考えると、良くない気がするのだ。

ともかく今日はする事が無い。キリエは復興の手伝いとしてネロの育った場所でもある孤児院に行っている。彼女は気丈だ。ネロは心の底からキリエに感服している。
一番、辛い筈なのに。弱音ひとつ吐かず、涙ひとつ見せず、笑顔を絶やす事など無い。ネロには不甲斐なさが募ったが、『ネロは十分すぎるくらい頑張ったもの、今度は私が頑張らなくちゃ』と愛らしい笑顔で言われてしまった。
ああ俺だっせえなあ、なんて思っている内に、ネロの目蓋は緩やかに降りていった。
意識を失う寸前にまで脳裏によぎったのは、ダンテだ。ネロは苦笑しつつ、微睡みに身を任せていった。




夢を見た。
なんて事はない。
ダンテの横に、女が居た。ただ、それだけの夢。
すごく幸せそうだった。
何故だか胸が痛かった。無性にイライラした。
その女をよく見ると、銀髪だった。ネロは息を呑んだ。
何故ならその女は、




「……」

ネロは飛び起きた。
汗をかいている。

「……あぁもう、…マジかよ」

寝起きの掠れた声で呟いた。頭を抱え、そして掻きむしる。

「クソッ、冗談じゃねぇ、…」

あの時、夢の中でダンテに寄り添っていたのは誰だ?
あれは、──

「クソ、あー、最悪だ」

ベッドに倒れ込み、天井を睨みつける。何もかも無かった事にしたい。


銀髪に青い目、決定打である異形の右腕。
あの女はネロだったのだ。

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