ダンテはその後仕事が入り出かけて行った。
『坊やの飯が食えるように昼には帰るから』、なんて言ってのけたダンテを少し恨めしく思った。人の気も知らないで。

ともかく、ひとりになってしまった。何をしようか──

なんて、愚問だ。
ネロは呆れた顔で事務所内を見渡す。


「…掃除だ、掃除!」




適当に机の一番下の引き出しを開けてみると、ゴミ袋のロールが出てきた。何で使わねぇんだよ、と今は不在の店主に悪態を吐きながら目につくゴミを押し込んで行く。ピザの箱や空きビンが多かった。
それが終わると入り口の辺りに放置されていたゴミ袋を両手でふたつ持ち、ドアを足で開けた。ゴミ袋は意外に重かった。

路地裏にゴミ置き場のような所(ただ単にゴミが放置されているだけのような気もするが)があったので、そこに袋を置く。
それを二、三回繰り返すと、すっかり息が上がってしまった。舌打ちして一旦ソファーに座る。全く不便な身体だ。

ふと、机を見てみると、エロ本が置いてある。机の下にも積んであった。

「……」

以前の自分なら──正直、ちょっとだけ読んでたかもしれない。
ただ、今はどうだろう、苛立ちを起こさせる一因にしかならない。何だかムカつくのだ。

ムカつくから、積んである下の方の雑誌を数冊まとめて捨てた。

両手をパンパンと払い、次は雑巾がけに入る。
それもやってしまうと、時計の針は十二時を指していた。

「(なんかあっかな、)」

キッチンに入り、食糧を探す。
パスタの乾麺とホールトマトと調味料少々、のみ。

「…はっ?」

いくら探してもそれ以外ない。ネロは頭をがりがり掻いて、溜め息を吐いた。

「あー、ったく…」




それから三十分、近場のスーパーへ出掛けて帰って来たネロは小走りでキッチンへ向かい、レジ袋の中身をぶちまけ、右手にはめていた手袋を取った。

「…よし、」

腕まくりをして意気込む。
せっかくなら、旨いものを作って驚かせてやりたい。と思うのは、果たして女の心理なのかどうか、ネロには分からなかった。し、あまり考えたくもなかった。
玉ねぎを刻んで、ひき肉と一緒に炒めて、そこで鼻歌を歌っている自分に気が付き咳払いをした。

「(…なんか、マズイな)」

料理の味の事ではない。




「ただい、ま──…?」

それから少し経って時計の針が一時二十分を指した頃、事務所の扉を開けダンテが帰ってきた。綺麗になった室内に目を丸くしている。
ネロは内心ガッツポーズしつつ、きちんと水拭きされた机の上にボロネーゼパスタを置いた。

「ほら、メシ出来たぜ」

「おお…随分頑張ったな、坊や」

「…へへ」

ニッとはにかんだネロの顔はまだ幼さが残っていて、ダンテの口元も自然に緩んだ。
フォークを手に取り、パスタを一口。普通に旨い。

「旨いぜ坊や、合格だ」

そう告げると、だろ?と無邪気に得意げな笑みを浮かべるネロ。今日は随分ご機嫌だな、とダンテはパスタを食べ進めていった。

ネロの笑みの後ろの葛藤には、ついに気付かないまま。

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