ネロはシャワーを浴びながら真っ赤な顔で唸っていた。

「〜〜〜〜〜〜っ、」

男のままでも全裸を見られたらそれは恥ずかしい。
それを、女の時に──

「だーっ、もう!」

何故自分だけがこんなにパニックにならなければいけないのか。全く気にしていないダンテの態度は腹が立ったし若干悲しかった。

悲しい?

「(──いや、それじゃ駄目だ)」

ダンテが自分の身体に興味など持っていなくて良いのだ。女である事は関係なしに振り向いて貰いたいのだから。第一、女を武器にしていたらあの悪魔の思惑通りのようで癪だ。

「(…まあ、武器になるような身体ではないし)」

ネロはそろそろと目線を落とす。確かに胸は小さい。そう言えば女になってから一度も気にならない。それ程小さい。
体つきは元の名残か締まり気味だ。
ちらりと大きな鏡を覗き、二秒で目を逸らした。

まあ、男目線から判断しても魅力的とはとても言えない。

「(べ、別に関係ないからいいけど…)」

自分に言い聞かせてみるが、この釈然としない敗北感は一体何だろうか。一体何に敗北しているのかも分からないが。



シャワーを終え事務所に戻ると、ダンテが事務所机に長い脚を乗っけたまあ行儀の悪い格好で座っていた。
そんでもって朝っぱらから堂々とエロ本を読んでいるのだから、こいつは何なんだろうかとネロはこめかみを押さえた。常識の無い奴だとは思っていたが、こんな所にまで常識が無いのはいかがなものか。

「改めておはよう、坊や」

「…ああ」

表紙の金髪美女が、豊満な身体に黒のビキニ一枚で挑発的なポーズを取っている。目が合ってしまった。

「……………」

こっち見んな。

敗北感が凄まじいものになってきた。にらめっこはもうやめようとネロは視線を外す。

「…なあ、朝メシ何?」

「ん?ああ、ピザ」

ピザ?とネロが首を傾げると、ほい、と平べったい箱を渡される。
表面にはカラフルな印字がしてある、つまり宅配ピザだ。

「普通にマルゲリータだが、いいか?」

「…え、ちょい待て。昼は?」

「ピザ」

「夜は」

「ピザ」

「……………」

ネロは頭を抱えた。ピザ?毎食ピザ?

「ダンテ、あんたメタボになるぞ…」

「ならねぇさ、ちゃんと運動してっから」

どこからそんな自信が来るのだろうか。良く見ればストロベリーサンデーも机に乗っている。今は何時だったろうか、確か朝の八時の筈だ。

「……」

「ん、なんだ?坊やもサンデー食いたいのか?」

「いらねぇよ朝から何てもん食ってんだよ!」

まさか今までずっとこうだったのだろうか。恐ろしい食生活だ。

「…はあ」

溜め息を吐きながらピザを口に運ぶ。Lサイズのピザは朝から食べるには重く、二切れ残ってしまった。多分以前の自分なら食べきれただろうが。
口も小さいから食べにくく、余計に食べる気が失せた。

「なんだもう食わねぇの?」

「…」

お前と一緒にすんな、と非難の目線を送るも効果なし。
頷くと、じゃあ俺が食うと二切れのピザをさらい、最後にきっちりサンデーまで平らげるのを見てネロは頭が痛くなった。

毎食これでは健康にも財布にもよろしくない。

「…ダンテ、昼は俺の分のピザ頼まなくていいよ」

「何でだ?」

「自分で作って食う」

そう言うと、ダンテは驚いたようにへぇと声を漏らした。

「坊や、料理出来たのか」

「お前みたいな生活能力ゼロの奴と一緒にすんな!料理くらい出来るって」

「いやてっきりキリエの嬢ちゃんに作って貰ってんのかと」

「あのなあ、キリエに毎回そんな事頼んでたら大変だろ」

生活能力ゼロって酷くないか、と言うダンテの抗議は無視した。酷いも何も、事実だ。

「そっか、それもそうか…なあ坊や」

「あ?」

椅子に座っているダンテのきらきらした子供のような目が、ネロを見上げる。
ネロが立っているからだが、見下ろされる事はあっても見上げられる事は今までなかったので、不思議な感覚だ。

「俺にも作ってくれよ」

「…は?え、何で」

「坊やの料理、食ってみたい」

ネロは顔に血が集まりそうで、慌ててそっぽを向いた。

「(だから、何でそう言う事言うかな…)」

こいつは女の敵だ、そうに違いない。いつか刺される。ああでも刺されても死なないか。

そんな事を考え、ネロは少し振り返った。

「まあ……味が何でもいいんなら、作ってやってもいい、けど」

何でこんな言い方しか出来ないのだろうか。
軽く自己嫌悪に陥るネロをよそに、ダンテは笑った。

「じゃあ、決まりな」

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