次の日、暫く歩いて、夕暮れの頃にはスラム街にあるダンテの事務所にたどり着いた。
道中ダンテがずっとトランクを引いていて、ついにネロは黙ったままだった。
ピンク色をした『Devil May Cry』のネオンサインは、今は夕焼けで何の色だか分からない。
「着いたぞ、坊や」
「…あぁ、」
年季の入った扉を押し開け入って行ったダンテの背中を見て、今になってネロは帰りたいと思った。
大体、ここに来てどうする?
「(でも、このままじゃフォルトゥナには居られないし…)」
キリエの言葉を頭の中で反芻して、
「(──それに、レッドクイーンはあいつが持ってるし)」
ひとり脳内で言い訳を述べ終えると、ネロは漸く事務所の中に足を踏み入れた。
「きったねぇ…」
が、ネロの第一声だった。
狭い事務所内はまさにゴミ屋敷だ。
ゴミ箱は最早その役目を果たしておらず、いっぱいになったゴミ袋が一応一ヵ所にまとめて置いてあるものの、宅配ピザの箱やら酒の瓶やら、まあ酷かった。
ネロは溜め息を吐き、スポーツバッグをソファーに置いた。流石にここには何も乗っていない。
「…で、坊や」
辟易した顔で事務所内にぐるりと視線を巡らすネロに、ダンテが話し掛けた。
「あ?」
「ちょっと服脱いでくれないか」
「…」
ネロの思考が一瞬フリーズ。
「…はぁっ!?な、何でだよ!」
「いや変な意味じゃないさ、『紋章』があるかどうかを見るんだ」
真面目な顔のダンテに少し恥ずかしくなって、ネロは押し黙る。
が、気を取り直して、ネロはコートを脱いだ。
「え、ここでか?」
「…んだよ、何か文句あんのかよ」
「…いや、別に」
そうだ、つい一昨日まで男だったのだから、男の前で服を脱ぐなど何の問題もない──
と、ネロが思いたかったが故の行動である。
察してくれたのかダンテはそれ以上何も言わず、自分に背を向けて服を脱ぐネロを見ていて良いのかどうかも分からず、こっそり溜め息を吐いた。
パーカーのファスナーを下ろし、無造作にソファーに投げると、黒いインナーを脱いだ。
ネロはキャミソールのようなタイプの白い下着を着ていた。無地だが裾がレースでひらひらしている。随分かわいらしいものを着ているな、と思ったが、多分妥協案だったのだろう。
「(流石にブラは着けらんなかったか)」
まあそうだろうな、とひとり頷いて、結局ネロの脱衣を見ている事に気付いたが、開き直りの早いこの男はまあいいやと小さな背中を見ていた。
ネロは一瞬ためらってからジーンズを脱ぐ。女性用のグレーのボクサーパンツを穿いているあたりに色気がねぇなと苦笑するも、今まで男だったネロに色気を求めても仕方がないと首を振った。一連の動きは勿論ネロからは見えていない。
「…下着、脱ぐの?」
「自分で背中が見えんなら、脱がなくてもいいけどな」
ネロは少し唸り、下着を脱いだ。
白くて、小さな背中だった。
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