真夜中の列車の中は空いていた。
少ない乗客の大半が寝ているため、客は自分達だけのような静けさが広がっている。
奥のボックス席に向かい合い、ダンテは脚を組んで、目の前の少女を苦笑しつつ見ていた。
「坊や、眠いんなら寝ていいんだぜ?」
「んん…」
ネロはほとんど閉じかけた目蓋をごしごし擦りながら、首を横に振る。
多分自分が寝ていないのに寝るのが嫌なんだろう、とダンテは考えた。変な意地を張っているのだ。ネロには少しそう言う所がある。
がくりと首が落ち、また目を覚まし、の繰り返し。
ダンテはやれやれと溜め息を吐き、腕を組むと目を閉じ下を向いた。
「……」
そのままじっとして、動かない。30秒くらいそうしていただろうか。
ダンテが目を開けてみると、ネロは夢の世界へ飛び立っているようだった。ダンテはほっと溜め息を吐き、腕組みを解く。
夜も遅いし、疲れているのだからすぐに寝ればいいのに。でも変にへそ曲がりな所はどこか自分に似ているような気もする。
「………」
ふとダンテはネロを見て、あっ、と声を上げ──そうになったが上げなかった。
それからコートを脱ぐと、スポーツバッグを膝に抱えて眠るネロにそっと掛けてやった。
いくら中身は生意気な糞餓鬼でも、今の性別は女の子だ。
「(その生意気な糞餓鬼に世話焼いてやってんだから、俺もお人好しだよな)」
内心自分を笑いつつ、しかしネロを放って置けないのも事実だ。
何故か。
身内の可能性があるからか?
閻魔刀を預けたからか?
──否、どれもしっくり来ない。
「(…あー、止めた止めた)」
ダンテは頭を振り、思考を追い払う。あまり考えるな、と言う脳みその警告に素直に従った。
ただ、調子が狂う。
それだけは分かっていた。
「(にしても、)」
ダンテは代わりに別の事を考え始めた。
こうなった原因である、老婆の悪魔の事だ。
「(願いを叶える…ンな悪魔が居るのか?)」
だとしたら、目的は一体何なのか。
老人の酔狂と言ってしまえばそれまでだが。
しかし、問題はそこではない。
「(もしこれが、坊やの願いが叶った状態なら…)」
ダンテは険しい顔で顎を擦った。
もしこれが、ネロの『願いが叶った』状態なら。
最悪の事態も、想定しなければならないのだ。
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