真夜中の空気は、昨日と同じようにひやりと冷たい。
黒い夜空に鎮座する月ですら一日ではさほど姿を変えないと言うのに、自分はえらく様変わりしてしまったものだと、ネロはふと歩みを止めた。焦げ茶のブーツの爪先が目に入る。小さな足だ。本当にこれが自分のものなのか、未だに信じられない。信じたくない。

キリエが、偶然見つけたと買ってきてくれた紺のロングコートの裾が冷たい風に頼りなく揺れた。
三時間もかかって、偶然な訳がない。似たような服を探してくれたのだ。赤いパーカーだってそうだ。
ズボンは細身のジーンズ。スキニーとか何とかキリエが言っていたが、ネロにはよく分からなかった。ただ、こんな細いパンツが入ってしまう所に驚いた。

「(いけね、列車…)」

ネロは頭を振って、包帯を巻いた上から手袋をはめた右手でレッドクイーンのトランクを持ち直し、足場の悪い山道を下って行った。




駅のホームに着いた時、既にネロはかなり体力を消耗していた。
もたない身体に息を切らせながら舌打ちし、トランクから一度手を離して手首を回したりしていると、唐突にトランクの取っ手が何者かに掴まれた。

「!?」

ネロは驚いて顔を上げると、目を見開いた。

「な、……」

自分と同じ銀髪、目立つ赤いコート。

「何で居んだよ、…ダンテ」

トランクを奪った張本人、伝説のデビルハンターと謳われた男は、気障にウインクしてみせた。

「坊やが重いトランク引きずってへとへとなんじゃねぇかな、と思ってな」

ネロは不機嫌な顔でダンテを睨んだ。身長差が結構出来てしまったので、見上げる形になり迫力に欠ける。

「余計なお世話だ!」

「だって、休んでたろ。やっぱり体力落ちちまったんだから、無理はすんな」

急に真面目な顔になったダンテに、文句が言えなくなる。

「自分の力量ってのは、常に分かっとけ。な?」

「…………」

ネロは俯き、やがて小さく頷く。
それを見て、どこか安堵したような表情を見せたダンテは歩き出した。

それに続いて後ろを歩くネロは、小さな、消え入りそうな声で、赤い背中に呟いた。

「………Thank you」

ダンテは振り向かず、穏やかな目で歩みを進めた。



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