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若が部屋に入るのは、これで三度目だった。
自分のとは違いきちんと片付けられた部屋の隅に置かれたベッドの上には、小さな女の子が横たえられている。
「ルイス、」
ベッド脇に出された椅子に腰掛け、ルイスの頭をそっと撫でた。二代目が運んだ時にキャスケット帽は外され髪もほどかれており、自分と同じ銀の髪には血がこびりついている。
顔色は昨晩──ルイスが現れた時に比べ、かなり良くなっている。抉られていた脇腹も、塞がりかけてきたので今は包帯が巻かれ、血まみれだった服はネロのTシャツに取り替えられている。
あとは、目を覚ますのを待つくらいだ。
「(今度こそ、助けてやるから)」
あの時とは違う。
若は目を伏せる、テメンニグルでの出来事が脳内再生される。
ルイスは青年の名を聞いて、思わず首からかかる、細いチェーンに通されたチャームリングを服の上から握った。これは物心ついた時から気づいたら持っていた物で、銀細工の細かく施されたそれは不思議と心を安らかにしてくれた。
また、このチャームリングは綺麗なだけではない。
裏面に名前が三人分、彫り込まれてあるのだ。
その名前が、まずはLewis。
そして、
「だ、ダンテ…?」
「うん」
狼狽える少女の反応に、ダンテは確信した。
まずはその銀髪。
彼女が魔具をふたつも所持しているのもすぐに分かった。それだけの強い力をその身に秘めている事も。
そして、同じ魂を受け継いでいる事も、また。
信じられない、まさか生きてる筈がない、そう思っていたが、どうやらそうらしい。
「…そう、俺はダンテ。双子のオニイチャンに、バージルってのがいる」
「え、」
ルイスが目を見開く。心当たりのある名前のようだ。
──Jack Pot!
「なあ、おチビちゃん。名前、当ててやろうか」
ダンテは、小さな身体をぎゅうと抱き締めた。わあ、と慌てた声が聞こえたが、すぐに大人しくなる。
「You are Lewis,aren't you?」
「Y-Yes,...but Why?」
「Since...you're my sister!!」
ダンテはルイスを高く持ち上げ、その後またぎゅうっとする。
「え、え、えーっ!?」
目を白黒させるルイス。
「ほ、本当に?」
「本当だ、…生きてるなんて、思わなかった」
ルイスの目にじんわりと涙が滲んだ。まさか、この時は予想もしなかった。
その後、魔界への扉を開く為の供物として、ルイスはアーカムに殺された。
脇腹を魔力によって穿たれ、奈落の底へ堕ちて行った。
ダンテもバージルも、手を伸ばしたが、無情にも届く事はなかった。
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