3

悲鳴を上げたルイスに、悪い悪いと笑いながら赤コートの男はしゃがみ込み、目線を合わせた。

「迷子か?ママが心配するぜ、帰んな」

ルイスは膝を抱え込み、顔を埋めた。

「…いないもん、ママもパパも」

「……。そうか、俺とおんなじだな」

帽子の上からぐりぐりと頭を撫でる手に、ルイスは顔を上げ、目を見開いた。
銀髪だ。

「なあ、おチビちゃん。お名前は言えるかい?」

「名前…」

名乗るのが、何故だか怖かった。直感だが。

「…お兄ちゃんは?」

「ん?俺は──」

ああ、でも、何故だかこの男の名前を聞くのも怖い。








「…嘘だろ、何でルイスが、」

「おいお前ら、突っ立ってないで包帯とか持って来い」

呆然とする若とバージルに、髭が声を掛けた。
ネロと初代がキッチンから出て来て、目を剥く。

「!!」

「なっ、そ、それ…」

「…とりあえず、コートを脱がせるぞ」

二代目がルイスに近付き、慎重に黒いコートを脱がせた。
ネロは思わず目を背けた。
白いシャツワンピースは腹部が赤黒く染まり、その上から鮮血が流れ続けている。

包帯とタオルを持って双子が戻って来た。

「止血は?」

「いや…無理だな。脇腹が抉られてる」

腹部から強い魔力が漏れ出しているのが、ネロにも分かった。只の怪我ではないらしい。
目を瞑ったままの少女の顔は青白く、小さく開いた口から聞こえるのはヒューヒューと言う呼吸音のみ。

「…こりゃ、荒療治しかねえか」

髭が顎に手を当て難しい顔で言う。二代目が頷いた。

「荒療治…?」

髭がああ、と返事をする。

「お前らにも交代でやってもらう、しっかり見てろ」

言うと髭は剥き出しの親指を噛み切った。指先から血が垂れる。
その指をルイスの口元に持って行くと、小さく開いた唇の間にそれを入れた。少し待つと、喉が微かに動いた。血を飲み込んだらしい。

「そしたら、」

髭は、力なく垂れる小さな手を握る。
ばちり、と静電気のはぜるような音がした。

「うお、」

「本当に荒療治だな…」

髭の手を通して、魔力が流れ込む。
ルイスの身体が、悪魔のそれに変貌し、すぐに元に戻る。

「こんな感じだ。本当はバイタルスターとかがあればいいんだが、気絶してる相手に使うのも難儀だからな」

ネロは先程から動揺しっぱなしだった。

「そ、それ。俺もやるの?」

「ああ、全員でローテーションした方が負担も少ない」

「出来るかな、俺…」

「大丈夫だ、出来る。頼んだぞ」

力強く言われ、ネロは頷いた。
その後ルイスは二代目の部屋へ運ばれ、今は彼が看ている。
双子は目に見えてそわそわしていると言うか、落ち着きが無かった。
若は脚を何度も組み直してみたり、腕を組んでは解いたり、忙しない。バージルは体こそ動かないものの、目線がいつもの倍はキョロキョロしている。

そう言えば、皆妹の話になると早々に切り上げようとしていた。話すのを嫌がっているような印象があった。だからルイスについてはほとんど何も知らない。
ネロはそれについて言及を避けていたし、今更しようとも思わない。

そして、ダンテ達やバージルも実はルイスの事をよく知らないと言うのもネロは知らない。

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