5:虫歯にスティンガー 1
出入り口である扉の前にはネロ、後ろに窓がある事務所机には髭、裏口があるキッチンには初代、事務所の外には双子。
そして、事務所内を徘徊するのは二代目。
ルイスは、自室に慌てて移動しクローゼットに飛び込んだ所だ。
何でこんな妙な事になっているのかと言えば、話は二週間前にさかのぼる。
*
その日、デビルメイクライは甘い匂いでいっぱいだった。ネロがストロベリーサンデーを作ったからだ。
ダンテ達の分は多め。バージルと自分、それからルイスの分は少なめ。
まだ子供のルイスにそんなに甘いものを大量に食べさせるのもまずい、と言うのと、以外にもルイスがそこまで甘党でもないのだ。
確かに甘いものは好きだが、無尽蔵に食いかねないダンテとは違い少し食べれば満足してしまうタイプなのである。
とにかく、皆でストロベリーサンデーをつついていた昼下がりの事だ。
「いたっ」
突然ルイスがスプーンを取り落とし、ほっぺたを押さえたのだ。
これに一番速く反応したのはネロ。
「ルイス、口開けてみ。そう、あー」
あの時のネロの目は完全なる母親だったとダンテ達は後に語っている。
ルイスの口の中を覗き込んだネロは、思いきり眉間にシワを寄せた。
「…虫歯だな、これ」
「虫歯ぁ?この辺に歯医者あったっけ」
若がスプーンをくわえながら言うと、髭が顎をさすりながら答えた。
「確か、ジョンソンとか言う奴がやってる歯医者があった気がするな」
「本当か?じゃあ行くか…」
いくら半魔でも、放置して虫歯が治る訳ではない。自然治癒が望めないものだからだ。
歯医者、の単語にルイスは顔を曇らせた。行った事はないが良いイメージが無いのだ。
「大丈夫だって、早い内に行けばすぐだから」
「…うん…」
ネロは右手に包帯をぐるぐる巻いた後手袋をはめ、長財布をズボンの尻ポケットに突っ込んだ。ルイスもコートを羽織って帽子を被る。顔は浮かないままだ。
結局、いらないと言われてしまったストロベリーサンデーは若が食べた。
「じゃあ行って来る」
「行ってきます…」
「はいよー」
覇気のないルイスを連れてネロが事務所を出る。初代が手をひらひら振るが、ばたんと扉が閉まった瞬間、思い出したように怪訝な顔をした。
「…ん?」
「なんだ初代」
「確かジョンソン歯科医院って…」
段々初代の眉間のシワが深くなり、二代目も何か思い出したのか、あぁ、と声を漏らす。
「歯科医院がどうかしたか」
バージルが訊くと、二代目は首を横に振った。
「いや、そのジョンソン医師の無事を祈っていただけだ」
「…はあ?」
若が意味不明だと言わんばかりの顔をすると、髭もあーあーそうか!と頷く。
すっかり置いてきぼりを喰らった双子は思わず顔を見合わせた。
「なら今度はお前らが連れてってみな、どうせ一回じゃ終わんないだろうしな」
ニヤニヤしながら髭が言うので、双子はまた顔を見合わせた。
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